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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 菊師

2009/11/26

集中と根気で秋表現

 花の衣装を豪華にまとった菊人形。日本各地で開催される菊人形展で、実際に制作している職人の大半が高浜市吉浜地区にゆかりがあるという。「菊師の里」の技術を垣間見たい。六十年のキャリアを誇る神谷重明さん(74)=同市神明町=の作業場を訪ねると、ピンクや黄、赤や白色の菊で飾られた親鸞聖人や淀君などの人形十体がすがすがしい香りを放って迎えてくれた。
 一口に菊師といっても仕事は多岐にわたる。神谷さんは菊づくりから手掛け、七アールの畑で約五十種類を栽培する。歌舞伎や大河ドラマをヒントに題材を決定すると、ポーズや衣装も描いた「下地」を基に、木材や竹ひごなどで人形の基礎となる胴殻を制作。人形を飾る舞台もしつらえ、背景も整える。

 仕上げの菊付けに挑戦してみた。まずは余分な葉を取り除いた菊を束ね、根元を水ごけで巻いた「玉」を作る。この巻き加減がくせものだ。固いと水を吸い上げず、柔らかくても水分が保てない。記者の手は玉の大きさに比べて小さいせいか、何度巻き直しても「柔らかすぎる」と、OKがでない。

 できた玉は胴殻に差し込み、一枝一枝を丈夫なイグサで胴殻に縛り付けていく。「えりや肩、すそのラインを際立たせるのがポイント」という。

 仕上げ中の菊にも触ってみた。茎は柔らかめに育てられているのだが、曲げ過ぎればポキッと折れそうだ。縛り方がゆるいと狙ったラインが完成しない。何度も茎をいじっていると「花持ちが悪くなるよ」との注意が飛んだ。力加減が分からないまま、一カ所縛るだけで肩が凝った。

 人形一体に使う菊は五十~六十玉。ベテランは集中力と根気を傾け尽くして、一日半から二日で菊付けを終える。そうして出来上がった人形の命は、わずか二週間というはかなさだ。「それでも『今年もきれいだね』という観客の一言で、また作っちゃうんだよ」。神谷さんは笑顔を見せた。(坂口千夏)

 【メモ】菊人形の制作費は、人形本体の数や花の付け替え回数などで精算される。活動が秋限定のため「菊人形だけで生計をたてるのは無理。農閑期の副業です」と神谷さん。「菊師の里」高浜市でも後継者不足は深刻で、最盛期の昭和30年代に30人はいた菊師も今は10人ほど。「菊付けなら10年で独り立ちできる」と話し、定年退職者などから後継者が出るのを期待している。