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【流儀あり】心がリッチになる店に ゼットン・稲本健一社長

2009/11/19

 どんなにITやインターネットが普及して(時代が変化して)も、飯は食うじゃない。1日3回、1年で1000回、食事する機会があって。車や携帯電話を買うのと比べれば(商売の)チャンスはいっぱいある。それが外食業の魅力かな。

 その分、お店もいっぱいあって厳しさはあるけど、飲食店は「ある店に行ったら、そこに行き続ける」ってわけじゃない。お客さんは毎日選ぶ機会があるんだから。街に人が来てさえくれれば。

 でも名古屋の街は閑散としてるでしょ。この1年くらい。これは大問題。飲食業をやって15年ですけど、一番厳しい時代だと思ってる。独立(起業)する人も減ってるしね。店を出すリスクがすごく高くなってる。

 ただ、こんな時代だからこそ、もっと外で飯を食ってもらって、いろんな人と話をして(元気になって)ほしいと思う。その場を提供するわれわれが、もっと元気にならないといけない。

 この十数年、甘えてきたところがあった。世の中が大きくなるのに乗って、会社も店も大きくなってきたけど、ここでリセッション(景気後退)が来た。振り落とされる企業が出る中、どう生き残れるか、っていうのを模索しているところ。

 今はちょうどはざまだから、どの業界も。自動車産業が次にどこへ行くのか、とか誰も答えを出せてないよね。でもきっと(優良な企業が多い業界だから)出してくるでしょう。僕らも新しい答えを出しながら進んでいかないといけない。

 “名古屋めし”を東京に広めるきっかけをつくったのはわれわれだ、と自負はしているし、名古屋の若い飲食店が東京に出ていく礎をつくったとも思っている。でもその役割は終わったんだと。新しいゼットンに変わっていこうとしている途中。じゃあ次はどこに進むかって聞かれると、「考え中」としか言えないけど。

 ただ(次の時代を考える中での)キーワードってのは、いろいろある。僕らが使ってるのは「カジュアルリッチ」。リッチといっても、お金持ちブイブイってのじゃなくて。身なりじゃなくて気持ちの問題という意味。「ラフだけどチープじゃない」。そういうのが今の店づくりのど真ん中かなと思ってますよ。格好はTシャツ、ジーパンでもいい。心が豊かなら。身なりだけリッチで気持ちがプアって、最悪じゃん。

 変化に柔軟であることが大事。変わり続けないと未来に進んで行けない。数字を追うのも大切だけど、お客さんの気持ちを豊かにするにはどうすればいいかって考えて、会社の経営もしていかないといけないかな。

 【いなもと・けんいち】90年、名古屋造形芸術短大卒。工業デザイナーを経て95年にゼットンを設立し、名古屋市にレストランバー「ZETTON」を開業した。01年には東京の恵比寿や銀座に出店。ひつまぶしやみそカツなどのメニューが人気となり「名古屋めし」ブームの火付け役になる。ゼットンは06年に名証セントレックスに上場。「フード」を意味する「舌(ぜつ)」と「ドリンク」の「呑(とん)」が由来で、ウルトラマンを倒した怪獣のゼットンにちなみ「既成概念を打ち破る」との意味も込めた。41歳。金沢市出身。