2009/09/02
重く奥が深い石積み
「石には顔がある。表面積の広い場所が顔。そこを外に向けて積むんだ」。職人の染次一郎さん(40)の言葉は、哲学的な薫りがしてすてきだったが、初心者には難しすぎた。
岡崎といえば、八丁味噌(みそ)。関東の実家では白いみそ汁を食すことが多かった私も、岡崎市民になって二年。すっかり、赤出しのとりこになった。
徳川家康の生誕地、岡崎城から西へ八丁(八百七十メートル)離れた同市八帖町。この地で、二つの会社が、戦国時代から受け継がれるという伝統の味を守っている。そのうちの一社、まるや八丁味噌の門をたたいた。
代表的な工程として、挑戦させてもらったのは「石積」と呼ばれる作業。軍手に安全靴姿で、高さ二・五メートルのおけに上り、仕込んだばかりの約五トンの大豆こうじの上に、円すい状に石を積み上げて重しにする。
「これを積んでみて」と、染次さんが指した石はバスケットボール二、三個分の大きさ。重さ約六十キロ。わずか五十センチを動かすのに、腕と背中の筋肉が震え、汗が噴き出た。
見た目よりも高く感じるおけの上で、大小五百個、計四トンの石を積む。二時間に及ぶ作業で、身も心も消耗した時、「いよいよ、まんじゅう石だよ」と、声がかかった。
最後に気を取り直して、円すいの頂にその石を積んだ。「石は重く、夏は暑い。きつい仕事で腰も痛むが、辞めようと思ったことはない。奥が深く、やりがいがあるからね」。染次さんは胸を張った。
このおけの味噌が自然発酵を続け、食べごろを迎えるのは二年後の二〇一一年秋以降という。「おいしくなるんだぞ」。そう呼び掛けて蔵を後にした。(相坂穣)
【メモ】岡崎市八帖町の味噌会社は、まるやとカクキューの2社。石積みの職人は、10人に満たない。学歴は不問だが、石の運搬に使うフォークリフトの免許取得が必要。一人前になるには、10年前後はかかる。まるやの高卒初任給は15万9000円。
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