2009/07/29
水を替え透明さ追求
夏真っ盛り。のどを潤す冷たい飲み物に氷は欠かせない。東三河で唯一製氷を続ける大正冷蔵(豊橋市湊町)で氷作りに挑戦した。
氷を作って二十七年の工務主任松井博司さん(50)と製氷室に入ると、ひんやり。室内には全長約二十メートルのプールが広がる。二百十六に区切られた枠内には百四十リットルの水が入った鉄製の缶(高さ百十五センチ、幅三十センチ、奥行き六十センチ)が沈む。「プールを満たすマイナス一二度の塩化カルシウム水溶液で、六十時間かけて凍らせます」
圧倒されている記者に「水替えをしましょう」と松井さん。水を入れて二十四時間後と三十六時間後に、凍っていない中心部の水を入れ替える作業だ。不純物が中心に残り、白く濁るのを防ぐ。
早速、吸水ホースを缶に入れて水を出し、直後に給水ホースを入れて新たな水を満たす。松井さんからは「溶けちゃうから素早くやらないと」の一言。応えようとするが、モタモタして水があふれる。一缶につき約六十リットルの水の出し入れを十二缶分繰り返すと、さすがに息が上がった。
暑いと思っていると、今度はマイナス三度の貯氷庫へ。松井さんら四人が交代で作った氷を置く場所だ。松井さんが凍った缶を水槽に浸し、少し溶けたところで傾けるとツルン。巨大な氷塊が滑って出た。向こう側が見えるほど透き通り、見とれてしまう。塊に手かぎを引っかけてひょいと立ち上げて並べる姿が、簡単そうに見えて「やらせてください」。一つの重さは百三十五キロ。さっきまで動いた塊は頑として動かず、凍った床に足が滑って反対に引きずられる。コツがあるのか、全く思い通りにいかなかった。
「カチッとして透明なのが良い氷。常にそんな氷を目指したい」と松井さん。良い氷が何かなど考えたこともなかった記者に、その一言は新鮮だった。体験後、一息ついて喫茶店でアイスティーを飲むとカラン-。松井さんらが丁寧に作り上げた氷がグラスの中で軽やかな音を立てると、何だか涼やかな気持ちになった。(世古紘子)
【メモ】大正冷蔵の採用予定はない。熊田嘉一郎社長(57)によると、最盛期は夏に1日100本近く出ていた氷も、現在は30~40本に減った。卸先は養鰻(ようまん)業者や喫茶店など。松井さんは管理者として高圧ガス製造保安責任者の資格を持つ。勤務体制は24時間だが、勤務時間は8時間。
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