2009/07/01
好プレー支える誇り
選手が去り、歓声が消えた夜の球場。華麗な一投一打がきらめくダイヤモンドを守るため、汗を流す男たちがいる。今夏の高校野球県大会決勝戦の舞台、岡崎市民球場(同市高隆寺町)のグラウンドキーパーに密着した。
連日開催中の都市対抗野球二次予選の試合が終わったのは、午後五時半。就職以来十五年間、球場担当一筋の岡崎パブリックサービス施設係リーダー中根丈晴さん(38)たち四人が、グラウンドに飛び出した。
翌日午後には再び試合があるが、天気予報は午前中まで雨。夜のうちに済ませておかなければならない作業は山積みだ。
高校球児時代のあやふやな技術を頼りに、トンボと呼ばれるT字形の整備用具でグラウンドをならさせてもらった。記者の不器用な仕事の跡も、ローラー車で踏み固められ、すぐに見分けがつかなくなる。無意味に悔しがっているうちに、甲子園球場と同じという自慢のティフトン種芝を、中根さんが自走式の芝刈り機で刈り上げていた。
二センチきっかりに美しく刈りそろえられた右翼。真っ青な天然芝に乗せる純白のラインは、植物に害がない特殊な水性塗料で引く。定められた三インチ(七・六センチ)幅に噴霧できるラインマーカーをこわごわ押した。
案の定、小刻みに曲がってしまった。「遠くから見れば分からない。うちの若手よりうまいよ」と持ち上げられたが、自分の仕事が試合の明暗を分ける“ルール”になってしまう怖さを感じた。すべての作業が終わったのは、午後九時近くだった。
雨が降れば、前日の整備が台無しになってしまうことも。早朝の緊急出勤がざらで、突然の試合開始決定で急に呼び出されることもある。しかし、グラウンドはいつも平らで線は真っすぐなのが当たり前。過酷なわりに脚光を浴びることがほとんどない裏方だ。
「選手や観客の『いい球場だね』という声が一番のご褒美。東海一の屋外球場を目指したい」。好プレーを支える誇りを胸に、今日もグラウンドへ向かう。(中野祐紀)
【メモ】岡崎市の公共施設管理を担う岡崎パブリックサービスの場合、初任給は約17万円。両翼99・1メートル中堅126メートルで収容人員2万人の市民球場は、プロ野球のドラゴンズ戦や都市対抗、高校野球の大会開催が相次ぎ、担当者は多忙。荒天による突然の呼び出しなど、不規則な勤務もある。地道な作業にこつこつ取り組める人が向いているという。
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