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【暮らし】<医療をまもる>労組やNPO設立 立ち上がる勤務医

2009/06/25

 医療崩壊や医師不足、過酷な労働の現状を何とか打破しようと、医師自身が立ち上がる動きが各地でみられる。現場の苦しみを国民に理解してもらい、先進国で最低水準とされる医療費の増額など制度改革を国に求めていく運動だ。 (安藤明夫)

 東京で今月七日、医師の労働組合「全国医師ユニオン」の設立会見が行われた。

 代表の植山直人医師は「日本では医師は労働者ではなく、聖職者とみなされていた。労働基準法を守って働くという発想が国民の中にも医師の中にもなかった。ヨーロッパでは、医師の組合が医療の充実に大きな役割を果たしている」と訴えた。

 全国規模で医師だけが参加する組合は初めて。現在の組合員はまだ八人で、いずれも、昨年結成された全国医師連盟の中心メンバー。当面は同連盟の会員(約八百五十人)を対象に参加を呼びかけ、将来的には全国の複数の医師が勤務するすべての病院に支部を設けることが目標だ。

 法律の専門家や各地の管理職ユニオンなどとも連携し、組合員の労働トラブルには必要に応じて社会保険労務士や弁護士を紹介したり、交渉をうまく解決できた事例をマニュアル化するなどして、医師を守っていきたいという。組合員が過労で倒れた場合は家族の相談に乗り、場合によっては弁護士費用の援助も検討する。

 当面の活動目標は▽過労死を引き起こす長時間労働をなくす▽当直は時間外勤務だと経営者に認めさせる▽二十四時間拘束される「主治医制」を「担当医制」に変え、チームで分担する制度を目指す-の三点。

 植山代表は「いずれも国が医療費抑制政策を撤廃し大幅な増大をしなければ解決できないこと。医療崩壊と医師不足の問題に国民の理解を求めていきたい」と話した。

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 十九日には「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」(松本晃理事長)が、東京でNPO法人設立の会見を開いた。

 大学医学部の外科系教授や経済界などのメンバーが参加。今後は、外科医の魅力を伝え、志望者を増やす活動、一般市民への啓発、外科の技術料の大幅増額要求などに取り組んでいく。

 同会によれば、日本全国の外科医(整形外科なども含む)の数は、二〇〇四年末の五万四千人をピークに徐々に減少し、平均年齢も高齢化。小児科、産科とともに医師不足が深刻になっている。

 中尾昭公・名古屋大教授は、若手医師の外科離れの理由として▽技術習得の大変さ▽労働時間の長さ▽医療事故のリスク-などを挙げ「手術ができる病院がどんどん減っていく」と訴えた。

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 一九九九年に過労からうつ病になり、命を絶った東京の小児科医、故・中原利郎さんの「過労死認定を支援する会」では「いのち、守るボールペン」の輪を広げる活動を展開している。

 「過労死から医師を守ろう!」のキャッチフレーズが入り、「医師」の部分をシールで「自分」にはり替えることもできる。

 中原医師の過労死認定を求める裁判は、二〇〇七年に東京地裁で国の労災不認定取り消しを求める原告勝訴の判決が出たが、地裁も高裁も病院側の責任については認めず、昨年十一月に原告側が最高裁に上告受理の申し立てをした。

 同会が目指すのは、医療の状況を改善し、医師も患者も守られる現場を実現すること。仲間の医師らが参加し、ボールペン配布を通じて署名や寄付を求めている。