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【三重】「命の大切さ」肌で学ぶ 愛農学園農業高の鶏解体実習

2009/05/25

 伊賀市別府の愛農学園農業高校の生徒たちが、ニワトリの解体実習に取り組んでいる。ひよこのころから世話をしてきたとあって、生徒たちには複雑な思いが渦巻く。一方で「他の命の犠牲にして私たちは生かされていることが分かる」と充実感も大きい。実習に臨む生徒の思いを探った。

 「先生、怖いです」。1年生の男女4人が、暴れないようニワトリの羽を握り、頭を持ち上げた。のど元に包丁を当てるが、思った以上に固くて刃が入らない。「思い切り力を入れて」と横に立つ浜田雄士教諭(57)がニワトリを抱きかかえる。何度も切り付けるとようやくけい動脈が切れ、血があふれ出した。包丁を置いた生徒は、ニワトリの体温が残る手をしばらく眺める。「これが命を奪うということだよ」と浜田教諭が優しく語りかけた。

 人生初めての体験だけに、泣きだしたり貧血で倒れる子もいる。「自分が生きていることをリアルに感じてほしい。農業教育の場としてその機会を与えたいんです」と浜田教諭。命を粗末にしてはならないことを知ってもらう狙いだ。

 ニワトリは卵を生産するため同校で飼育してきた。5・5ヘクタールと広大な農場の一角に2000羽がいる。その中で、卵の産みが悪くなったニワトリは生徒の手で処分しなければならない。その数は週に50羽に上る。

 生徒には、解体に賛否両論がある。浜田教諭は「いろんな意見があっていい。できないのなら無理しなくていいんです」と話す。しかし、実際にはあきらめる生徒はほとんどいない。戸惑いながらもやり遂げるという。

 「できればやりたくなかったけれど、今はやってよかったと思う。命を頂いていることがよく分かったから」。作業した対木春香さん(15)は晴れ晴れとした表情で話す。ほかの3人も「やってよかった」と口をそろえた。

 肉は近く、生徒らが調理して寮の食事にする。自身も43年前にこの実習に取り組んだ奥田信夫校長(60)は「学校の食事で残飯が出ることはほとんどない。生き物の温かさを感じて『命の大切さ』を学んでいるからでしょう」と話す。

 (河北彬光)

 【愛農学園農業高校】 全国唯一の私立農業高校。全寮制で全校生徒64人。2、3年生は養鶏、酪農、養豚、果樹、作物、野菜の6部門のいずれかに所属する。1年生はローテーションで各部を体験する。農産物は一般販売するほか学校の食事の材料にする。同校の食料自給率は70%。日本の40%を大きく上回る。

ニワトリの持ち方を教える浜田教諭(右)と解体に臨む1年生たち=伊賀市別府の愛農学園農業高校で
ニワトリの持ち方を教える浜田教諭(右)と解体に臨む1年生たち=伊賀市別府の愛農学園農業高校で