中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【三重】追う/職場環境の整備 急務 高年齢の労働者 けが増加

2025/12/23

 60歳以上の高年齢労働者の労働災害が県内で増加している。人手不足が叫ばれ、行政や事業所が高年齢者の就労を促進する中、加齢による心身の変化に配慮した職場環境づくりが求められている。改正労働安全衛生法により2026年4月から高年齢者の労災防止対策が努力義務として事業所に課される。高年齢者の就労参加は不可欠で、安心して安全に働ける職場整備は喫緊の課題だ。 (八重樫智)

 ◇ ◇ ◇

 「腰が痛く、つえを持って歩くようになった」。県内の福祉施設のパート従業員だった中勢地域の女性(79)は苦渋の表情を浮かべた。21年、施設内で荷物を運んでいた際に転倒し足などを骨折。全治数カ月と診断され、労災が認められた。その後、腰痛も発症した。

 友人の誘いで始めたパート。地域社会とつながれるだけでなく「認知症対策にもなれば」と期待した。だが負傷してからは無職になった。女性は「働くことができなくなり、悔しくてたまらない。旅行にも気軽に行けなくなった。転ぶ前はどこも痛くなく、つえなしで歩けていたのに。つらい」と吐露した。

 高年齢者の労災は県内でも目立つ。24年に労災で死傷した全年代の中で、60歳以上の割合は31・2%で最多だった。25年10月末現在でも最多の31・2%となっている。20、30代は各10%余を占める。

 事故の種別では、転倒が全体の4分の1を占め最多。転倒で死亡することもあり、18年には県内の建設現場で勤務中の男性(69)が転倒し、頸椎(けいつい)を損傷し亡くなった。転倒に次いで「墜落・転落」(16・6%)、「動作の反動・無理な動作」(15・1%)と続いた。加齢による身体機能の低下に起因するものとみられ、休業見込み期間は年齢が上がるにつれて長期化する傾向にある。

 三重労働局(津市)の堀川康孝安全専門官は「高年齢労働者は身体機能が弱い。事業所側も段差をなくすなど防止対策をとってほしい」と呼びかける。

 改正法では、高年齢者の労災防止措置が事業所の努力義務になる。厚生労働省は20年に高年齢者の労災防止に関するガイドラインを公表した。24年の労働安全衛生調査によると、設備や装備などの対策、整理・整頓の徹底などに取り組んでいる事業所は全体の約78%だが、骨密度などのチェックによる転倒やけがのリスクの見える化に取り組んでいるのは約6%だった。

 東海労働弁護団の田巻紘子弁護士は「労働安全衛生のための対応を全職場で見直すことが必要だ」と指摘。「労働者の体格や性格はさまざま。高齢の場合、個人差はさらに大きい」とし、「個人差を労働者の自己責任にしてはいけない。使用者は労働者の個々の状況に配慮して、労働者の心身を害さないように業務指示をしなければならない」と述べる。

 労災に詳しい鈴鹿医療科学大保健衛生学部の伊藤卓也准教授は、高年齢者の就労メリットとして「社会参加や役割維持の場となり、認知症やフレイル予防、経済的自立、意欲向上につながる」と説明。事業所内の設備改善や専門家指導の経費を補助する「エイジフレンドリー補助金」を紹介した上でこう訴える。「『個人の健康管理』×『職場環境の改善』×『組織的な安全対策』の三位一体で取り組むことが必要だ」

 高齢者の労災対策
 <1>身体機能面の対策
▼下肢筋力やバランス能力の維持・向上。簡易運動を日常に組み込む
▼柔軟性・関節可動域の確保。ストレッチを習慣に
▼視力・聴力検査の定期実施
▼服用薬の確認。眠気・ふらつきなど副作用への注意
▼勤務時間中や休憩時間の運動を推奨

 <2>職場環境面の対策
▼段差・滑りやすい床の改善
▼照明の確保。特に夕方や暗所
▼荷物の適正重量化、補助具の活用。台車など
▼作業動作の適正化。無理な前かがみ・ねじり動作を避ける

 <3>行動面・健康管理
▼疲労管理。休憩・睡眠
▼適切な靴選び。滑りにくく足にフィット
▼持病(糖尿病、循環器疾患)のコントロール

(鈴鹿医療科学大の伊藤卓也准教授への取材を元に作成)

労働災害後、つえによる歩行が必要になった女性=県内で
労働災害後、つえによる歩行が必要になった女性=県内で