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【暮らし】<モノ運びの陰で>(上)続く長時間労働

2019/06/17

 真新しい中学校の制服に初めて袖を通したのは、父親の葬儀の日だった。

 愛知県内の小学校卒業を翌月に控えた昨年2月末。インフルエンザにかかった少女が1人休んでいると、父親が部屋に来て添い寝をしてくれた。職場の運送会社を抜け出してきたのだという。家にいたのは2、3時間だったか。午後10時ごろ、職場へ戻っていった。

 翌朝、父親は会社で倒れているのが見つかった。死因は致死性不整脈。37歳だった。妻と娘、息子の3人が残された。

 運送会社で働いて4年。毎日のようにハンドルを握って県内の契約先を回る傍ら、事業所の所長代理として労務の仕事も任された。会社に泊まり、ソファで寝るのが習慣になった。夜中も荷物を運ぶ自社便の運行管理のためだ。家に帰るのは2、3日に一度。それも「シャワーを浴びるだけだった」と妻は言う。

 労働基準監督署は、男性が亡くなって8カ月後の10月、労災と認定した。亡くなる直前6カ月の平均時間外労働時間は、「過労死ライン」とされる月80時間が常態化していた。

 トラック運転手の過労死数は、突出している。全国自動車交通労働組合総連合会が、厚生労働省による2017年度の過労死の労災認定件数、総務省の労働力調査のデータを基に分析したところ、労災と認められた過労死は10万人当たり4・64人。全産業の過労死0・47人の9・8倍に上る。16年度も10・1倍と傾向に変わりはない。

 背景には、仮眠の時間なども含めた乗務開始から終業までの「拘束時間」が長いことがある。拘束時間や、終業から次の運行までの休息期間について厚労省が定めた「改善基準の告示」では、一日の拘束時間を13時間以内、最大でも16時間以内などとしている。ただ、同省などが15年、全国のトラック事業者約1250社、運転手約5000人について調べたところ、36・6%が13時間を超える結果に。中でも500キロ超の長距離運行では、43%が16時間を超えていた。

 拘束時間が長くなる要因の一つは、運転時間以外にも荷物の積みおろしがあったり、荷主の都合で待ち時間が生じたりすることだ。国土交通省は17年7月から、常に荷待ち時間が発生するなど悪質な荷主については名前を公表するなどの対策を始めたが、効果が出るかどうかはこれからだ。

4月に施行された働き方改革関連法には、残業時間の上限付き罰則規制が盛り込まれた。だが、運送業への適用は24年4月まで先送りに。東京五輪に向け物流が活発化し、さらなる人手不足が見込まれるためだ。適用される上限も「年960時間未満」だけで、他業種の「月100時間未満」「年720時間未満」などに比べて緩い。業界団体は独自のアクションプランを策定。施行までの目標達成を目指し取り組んでいる。

 亡くなる少し前、男性が息子に宛てて書いた手紙がある。そこには、家族への思いがつづられていた。

 「これからも家族4人、幸せでいよう」

      ◇

 長時間労働と低賃金に苦しむトラック運転手たち。モノづくりで発展してきた日本で、作ったモノを運べなくなる-。深刻な人手不足を背景に、物流危機が叫ばれている。国を挙げた働き方改革の流れからも取り残された感のある現場を見た。

 (三浦耕喜)

「これからも家族4人、幸せでいよう」とつづられた息子への手紙
「これからも家族4人、幸せでいよう」とつづられた息子への手紙