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【社会】「移民」元年 日本で就活 韓国の学生 就職難、非正規増

2019/05/09

能力や規律評価  若年層 失業深刻 出生率は0.98に 

 日本同様、少子高齢化が深刻化し、外国人労働者受け入れを進める韓国から、高学歴の若者が日本企業への就職を求め海を渡ってきている。背景にあるのは、韓国での就職難。改正入管難民法で増加が見込まれる外国人労働者像とは異なるが、隣国の若手人材に日本企業は注目。新たな「移民」の流れになっている。(武藤周吉)

 ◇ ◇ ◇

 四月中旬、名古屋市中村区で開かれた「韓国人材採用面接会」。IT企業や製造業、流通業など日本に拠点がある十七社がブースを構える中、リクルートスーツに身を包んだ韓国の若者約四十人が緊張の面持ちで面接に臨んでいた。

 企画したのは大韓貿易投資振興公社(KOTRA)。若年層の失業率の高まりを受け、二〇一四年から国策として海外就職の支援活動を始めた。一八年までの五年間で海外に送り出したのは二千六百五十三人。うち日本での就職は八百十七人で全体の三割を占めた。国別では最も多く、年々増加傾向にあるという。

 「日本の採用文化は魅力的です」。ソウル市内の私立大四年チョ・ジェヨンさん(24)は、独学で学んだという流ちょうな日本語で、日本企業への就職を目指す理由を語る。

 大学二年の時、ソウルであった日本企業の合同就職説明会に参加。厳しい競争にさらされている韓国の就職活動では資格取得の有無や語学力などで評価されることが多いのに対して、「日本では成長の可能性や人物本位で採用してくれる」と感じた。

 社内での研修制度が充実しているのも魅力的。今では同じく日本を目指す仲間と勉強会を定期的に開いて、日本語に磨きをかける。「高い技術力を持つ日本企業へ就職して、自分の力を伸ばしたい」と意気込む。

 政治的には冷え込む日韓関係だが、面接の参加者によると、映画やアニメなど日本文化への親しみや、隣国で距離が近いことなどが、韓国の若者から日本が人気を集める理由だという。

 国際的なビジネス展開を目指す日本企業も韓国の若者に熱視線を送る。「幼いころから厳しい受験戦争を経験し、総じて語学力が高い」と名古屋市内の人材派遣会社の採用担当者は評価する。KOTRAによると、日本企業への就職を希望する韓国人は日本語能力はもちろん、英語能力も高い。希望者のうち、実用英語試験であるTOEICのスコアを持つ人の半数以上が、高得点の目安とされる八百五点以上を取っていた。

 日本の企業文化との相性の良さを指摘する声も。愛知県内の製造会社の担当者は「兵役を経験しており、規律性がある。年上を敬ったり、勤勉だったりと、ともに働きやすい人材が多い」と歓迎している。

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◆若年層 失業深刻
◆出生率は0.98に

 韓国統計庁によると、昨年の全体の失業率は3・8%だが、十五~二十九歳の若年層に限ると9・5%に上る。

 日本の若年層(十五~二十四歳)の3・6%と比べて圧倒的に高い。

 就職難にあえぐ大半は大卒以上の高学歴の若者。韓国では財閥系の大企業と中小企業で激しい賃金格差があり、就職人気は大企業に偏重する。しかし大企業は国際競争力強化のため、新規採用を抑え非正規雇用や外注に切り替えており、就職難に拍車をかけている。

 高い若者の失業率を背景に、女性一人が生涯に産む子どもの数の平均を示す合計特殊出生率は昨年、〇・九八と初めて一を割り込み、日本の一・四三(二〇一七年)を上回る少子化ペースに。製造業や農業などの分野では働き手不足が深刻となり、外国人労働者を受け入れている。

 韓国経済に詳しい大東文化大の高安雄一教授(経済学)は「根本的な原因は雇用のミスマッチ。文在寅(ムンジェイン)政権の雇用政策も失敗続きで、失業率上昇に歯止めがかかっていない」と指摘する。

韓国人の新卒者らを対象に開かれた日本企業の採用面接会=名古屋・名駅のウインクあいちで
韓国人の新卒者らを対象に開かれた日本企業の採用面接会=名古屋・名駅のウインクあいちで