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【暮らし】<なくそう長時間労働> 読者アンケート深刻さ浮き彫り

2017/02/06

 人は幸せになるために働く。だが、長時間労働ゆえに心身をすり減らしている現実がある。インターネットを通じた読者アンケート「中日ボイス」で長時間労働について聞いたところ、9155人が回答を寄せた。あちこちの職場に、傷ついた大勢の人たちがいる。

 ◇ ◇ ◇

◆転職しても また残業

 真冬の寒さというのに、その人は長袖シャツ一枚でやってきた。「自律神経もやられているので、体温調整が狂っているんです」。手にしたタオルで汗をふく。資料の書類を取り出す手が、かすかに震えていた。

 愛知県大府市の男性(48)が最後に勤めていた地方金融機関を「休職期間満了により退職」となったのは、2015年12月のこと。現在、仕事はない。

 関西の大学を卒業後、大手銀行に入った。バブル華やかな時期。残業も日常的だったが、「日本経済の一線で働けて楽しかった」。

 直後にバブル崩壊。銀行は多額の不良債権を抱えた。個人向けの営業担当だった男性は矢面に立った。「君のところ、つぶれないよね」。顧客からの声に「絶対大丈夫です」と繰り返した。やがて銀行は破綻。結果としてうそをついたのがやり切れなかった。仕事を失った上、持っていた自社株も紙くずになった。

 「だから、違う職種で働きたいと思った。実家のある愛知県で」。大手自動車部品メーカーに入った。カーナビゲーションが普及し始めた時期で、活気があった。仕様に見合う価格を設定する企画担当になり、技術部門と営業部門との調整に走り回った。午前8時半に始業し、午前0時すぎの終電で帰宅する毎日。残業時間は月100時間を超えた。休日は、社内プレゼンテーションの資料づくりにつぶれた。

 眠れないことは、転職3年目ごろから気付いていた。原因不明の激しい腰痛で救急搬送されたことも。精神科にも通い、だましだまし働いた。だが08年9月、産業医から休職するよう言われた。

 収入は減ってもいいと、元銀行マンの経歴を生かして、10年に地方の金融機関に再転職。パソコンのソフトにも強かったので、手作業だった業務をプログラム化した。無駄を省いて仕事を果たせば、体を休められると考えたからだ。

 だが、上司は職場にいる時間を評価した。定時に業務を終えて帰ろうとすると、上司は仕事を振ってきた。運転も、草むしりもやった。飲み会の誘いを断ったことを理由に査定を下げられた。「確かに残業は前職より減りましたが、仕事以外で働き方を評価するやり方は、私にはパワハラでした」

 精神状態を悪くした男性は、15年6月から休職。半年の休職期間が終わったとして、「退職」の辞令が郵送されてきた。

 傷病手当金と雇用保険であと1年は食べていける。だが、指のしびれが取れない「五十男」に新たな仕事が見つかるのか。猛烈に働いていた時に建てた家があっては、生活保護の受給も難しいことも知っている。去って行った妻との間の子どもにも、養育費を送らねばならない。

 「過労死は免れましたが、それでも生きていかねばなりません。蓄えも尽きた後、私はどう生きていけばいいのでしょうか」

◆代わりきかない中小

 長時間労働をなくせと言うのは簡単だが、それができないから悩ましい。特に中小企業で働く人たちの苦悩は深い。

 「あの時に働き方を変えていなければ、子どもたちにも会えなかった」。そう言うのは、長野県の女性(40)。今は小学6年生と幼稚園年長の息子がいる。

 従業員は10人ほどの商店で働いていた。人を増やさないまま店を増やし、自分と同僚の2人で新店舗を回せと指示された。

 営業が終わる午後7時以降も、顧客管理などの作業に追われた。「2人ではローテに休日は最初から入れられなかった」。体重は減り、何を食べても味がしない。1年半後、職場で倒れた。社長から「客の前で救急車を呼んだとは」と叱責(しっせき)され、結局転職した。「責任感を刷り込まれ、何も考えられなくする。電通の新入社員と同じ」

 岐阜市の女性(37)は中堅の情報処理会社でソフト開発担当だった。納期に間に合わせるため、午後10時すぎまで働いた。残業時間は月70時間に達するはずだが、「上司は45時間以下で申告しろと指示していた」。頭痛、吐き気、胃痛に悩まされるようになり、製造業の事務員に転職した。給料は下がったが、縁に恵まれ子どもも授かった。「あのままだったら、人生は違っていた」と話す。

 努力する中小企業もある。だが、壁を越えられないのも現実だ。愛知県岡崎市にある機械部品製造業の人事担当男性(48)が言う。「電通事件の前から、社長の指示で従業員90人の働き方を見直しました」

 部品はオーダーメードの少量生産。「この部品はこの人しか作れない」ことが多い。代わって作業できる能力のある工員を育成し、平均残業時間は月50時間から半減した。

 ところが、残業手当は生活の一部で、それで人生設計を立てている人が多いのが現実。給料が減れば、住宅ローンも払えない。「高収入を求めて人材が去り、残った人の負担が増えるかも」と危惧する。


 「大手は『私たちは残業しない』と宣言できる。だが、彼らの投げた仕事は必ず下に降りてくる。大手が残業を減らすため、『残業のアウトソーシング』が始まるのでは」。不気味な予感を口にした。

◆「行政の監視不十分」32%

 アンケートは1月初旬に実施し、長時間労働の原因が何か聞いた。回答は「行政チェックが不十分なためサービス残業が横行」32.9%、「人手が少なすぎるのに仕事量が多い」31.2%、「長時間働いた方が会社に貢献しているという意識がある」26.7%、「その他・分からない」9.3%と分かれた。自由記入欄には「このままでは夫が過労死するかも」などと、悲痛な声があふれた。

 (三浦耕喜、諏訪慧)

「過労、パワハラの末に、これで無職となりました」と男性は辞令を差し出した=愛知県内で(一部画像処理)
「過労、パワハラの末に、これで無職となりました」と男性は辞令を差し出した=愛知県内で(一部画像処理)