2016/11/28
費用は全額補助/職場感染を防ぐ
行政への申請「前例ない」不受理も
会社の会議室で、ワイシャツの袖をまくり上げて次々と医師に注射を打ってもらうサラリーマンたち。先月下旬、病理検査機器メーカーの「サクラファインテックジャパン」(東京都中央区)で、医師や看護師を招いた集団予防接種が行われた。インフルエンザや流行中のはしかなどを防ぐ四種類の予防接種を実施し、費用は会社が負担。社員約百四十人のうち百八人が希望するワクチンを受けた。
インフルエンザなど二種類のワクチンを接種したマーケティング部の山本晃さんは、「会社で無料接種できるのは大変ありがたい。家族への感染を防げるので妻も喜んでいる」と話す。
同社が集団接種を始めたのは二〇一三年。風疹が大流行した年だった。石塚悟社長は、妊婦が風疹にかかると赤ちゃんに難聴などの障害が出る危険性があることや、二十~四十代の男性の予防接種率が低いことを報道で知り、集団接種の導入を決めた。「社員は医療機関に出入りすることが多い。感染拡大を止めなくてはと危機感を強めた」と話す。
以降毎年、集団接種を実施。一三年に五割だった社員の風疹抗体保有率は、今年は八割まで上がった。会社負担は年間約八十万円ほどだという。
大田区の半導体製造装置メーカー「ディスコ」も、一〇年からインフルエンザワクチンの集団接種を実施している。今年は十一月に七日間の接種日を設け、社員らは事前に予約。費用は会社負担で、国内営業所と関連会社の約三千人のうち大半が受けるという。同社の担当者は「社内で感染が拡大して社員が休み、生産が止まれば、お客さまに迷惑をかけてしまう。集団接種は事業継続のために欠かせない」と話す。
インターネット広告大手の「サイバーエージェント」(渋谷区)もインフルエンザの集団予防接種を実施し、会社が費用を負担。関連会社を含む社員約三千五百人が対象で、昨年は六割が接種を受けた。
国立国際医療研究センター感染症対策専門職の看護師・堀成美さんは、企業での集団接種の意義について「人との接触が多い働く世代は病気の感染を広げる危険性が高いが、なかなか病院が開いている時間に予防接種に行くことができない。集団接種で感染拡大を防ぐことは社員の福利厚生だけでなく、赤ちゃんや妊婦など社会の弱者を守ることにもつながる」と話す。
ただ、課題もある。ナビタスクリニック(立川市)の内科医・久住英二医師によると、企業で集団接種を行うには、実施医療機関の管理者が、事前に保健所へ巡回診療の計画書を提出する必要がある。だが、自治体によっては「前例がない」などとして、申請を受理しないケースも。久住医師は「企業での集団接種を広げるためには、自治体の後押しが不可欠だ」と指摘する。
会社に医師らに来てもらい、インフルエンザなどのワクチンを社員が集団接種する取り組みが広がっている。接種費用は会社が負担。病院が開いている時間に仕事を抜け出して予防接種を受けられない社員の感染を防ぎ、事業が滞らないようにする狙いだ。感染予防の専門家は社員の福利厚生だけでなく、妊婦や赤ちゃんなど社会の弱者を守ることにつながると評価する。 (細川暁子)
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