2015/12/18
社員ががんになったときどう対応するのか。がん患者となった社員が働き続けることができるように、社内制度を整えようとする会社側の模索も続いている。
「また仕事ができるという安心感と希望のおかげで、治療に専念できました」
東京都内で訪問介護事業所などを運営する「トータルケアサービス加島」(足立区)の介護福祉士石鍋政美さん(51)は笑顔で振り返る。
一昨年、子宮体がんを患い、手術や抗がん剤治療で8カ月休職した。ヘルパーと利用者の需要を取りまとめるサービス提供責任者として経験を積んだベテランの一人。告知を受けて間もなく、会社に報告した。
社長の渋谷洋子さん(71)らは、がんの現状と治療の見通しなどを石鍋さんから聞き取り、本人の了解の下で幹部会議や職場で情報を共有。入院前から復職を前提に、石鍋さんの仕事を同じ職場で分担するカバー態勢をつくった。
同社の従業員は約310人。慢性的に人材不足の介護業界のため、1993年の創業当初から病気になっても働き続けられる支援策に取り組んできた。病気休職から復職する際は事務職から始めて体を慣らす勤務や、非正規雇用も含めて最長3カ月間、時短勤務ができる制度がある。
石鍋さんは、抗がん剤で抜けた髪の毛が生えそろうまで療養。復職後はがんを患う利用者の介護で体験者の立場から対応を意識するようになった。同僚の平塚純子さん(50)は「明日はわが身。がんだと周りに打ち明け、互いに支え合う雰囲気ができている」と話す。
自治体や企業などから医療電話相談業務を請け負う「ティーペック」(東京)は昨年6月、がんの治療や検査で通院する場合は、通常の有給とは別に月2日間、治療休暇を取れるようにした。半日単位で最大月4回使うこともできる。
同社がこの制度を導入したのは、40代の社員ががんの外来治療のために有給休暇を使い果たし、休日出勤していたことが発端だった。人事部長の大神田直明さん(51)は「がんは治療費がかさむ上に精神的な負担も大きい。重要な戦力の人に社を辞められては、会社は一から人材を育て直さなければならず、できる限りの環境を整えた」と話す。
がんの状態と体調、治療の方針は患者1人1人で大きく異なる。どうすることが本人にとって最も良いのか、会社側も悩む。
「とにかく分からないことだらけで、経営者としてどうすればいいのか困った」。岐阜県多治見市の「コミュニティタクシー」会長、岩村龍一さん(54)は3年前、ベテラン男性社員(70)からがんを告白されたときのことを振り返る。
膀胱(ぼうこう)がんのため、2カ月の入院が必要とされた。でも「病状はどうか」「復帰はできそうか」「生死にかかわるかもしれないが、本人に聞いていいものなのか」と悩んだ。
がん患者に対応した社内規定や福利厚生制度はなく、とりあえず「治すことに専念してもらおう」と治療中の給与を全額保障。幸い男性社員は退院後、すぐ復職でき、今も元気に働く。ただ、復職まで長期にわたる場合はどうするのか決めていない。
岩村さんは「復帰の見通し、本人の希望などを、医療ソーシャルワーカーやキャリアカウンセラーなどの専門職が仲介してくれ、意思疎通がはかれればいいのだが」と話す。
(山本真嗣)
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