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【社会】過労死 遺族の叫び「繰り返さない」勇気の声を

2015/11/24

 政府が経済政策に力を入れる一方で、心身に不調をきたす労働者は後を絶たない。過労死の人数は高止まりしたままで、過労自殺者も増えている。死を防ぐために家族は、長時間労働やパワハラとどう向き合えばいいのか。遺族や専門家は「悲しみを繰り返さないために、勇気を出して声を上げて」と訴える。

 ◇ ◇ ◇

 「長時間労働が続いて疲れ果て、体を引きずるようにして出勤した夫を止めていればと、今でも悔いが残ります」

 勤労感謝の日の23日、名古屋市中村区で開かれたシンポジウム。過重労働の可能性がある状態で亡くなった2人の遺族が、癒えない心の傷と再発防止を訴えた。トヨタ自動車系の会社員、三輪敏博さん=当時(37)=を亡くした愛知県安城市の妻香織さん(38)は時折、声を詰まらせて、用意した紙を読み上げた。

 敏博さんは車の備品製造に携わっていた。不眠や思考力の低下を訴えて2007年に精神科を受診し、うつ病と診断された。一時は良くなったが再発し、月1回の通院と薬の服用で勤務を続けたが、11年9月、自宅で就寝中に致死性不整脈で亡くなった。

 香織さんが調べると、敏博さんはタイムカードに退社時刻を記録した後も仕事をしていたと判明。死亡直前の1カ月の時間外労働は99時間に上った。過労死認定基準の「ほぼ100時間」を満たしているとして労災申請したが却下され、この処分の取り消しを求めて14年に国を提訴。現在も係争中だ。

 「考えれば考えるほど、夫は仕事に命を奪われたと確信します」。香織さんは、実際の労働時間と向き合わない会社の主張が認められれば、同じことが繰り返されると懸念する。「残された家族は本当に苦しく、周りの普通の家族を見るたびに、みじめな思いをする。こんな思いをする人が増えてはいけない」

 敏博さんは亡くなる直前の3日間連続で朝、定時に起きられなかった。香織さんは「いま思えば限界のサインだったかも…。当時はうつ病の知識に乏しく、止められなかった」と振り返る。「ひとごとではないんです。異変に気付いて家族を守るため、心の不調についてよく知ってほしい」

 名古屋市バスの運転手だった長男の山田明さん=当時(37)=を亡くした同市緑区の父、勇さん(75)は「真面目で、頼まれれば休日出勤して長時間、働いていた」と無念さをにじませる。

 明さんは07年、道路の高架下で焼身自殺した。自宅のパソコン内のメモに、車内アナウンスや接客態度の指導でパワハラがあったと記していた。勇さんは、パワハラや過重労働でうつ状態となり、自殺につながったと主張、公務災害と認めなかった地方公務員災害補償基金の処分取り消しを求めて提訴。今年3月に棄却され、控訴している。

 勇さんは当時、明さんと別居していた。「もっと話をしていれば、力になれたかもしれない。親子なのに何も気付けなかった。それが悔しい」

◆周囲が気づき話に耳傾けて

 NPO法人愛知健康センターの鈴木明男理事長の話 過労死や過労自殺を防ぐには、まず家族や周りの人が心身の不調やうつ病などに、早期に気づくことが大事だ。様子がおかしいと思ったら一緒に精神科に行き、診察にも同席してほしい。「頑張れ」ではなく「ちょっと休もうか」と優しく声を掛け、相手の言うことにじっくり耳を傾けてほしい。学校のいじめと同じで「嫌だ」と言わなければ、会社側から歯止めはかからない。世論は長時間労働を否定するだけでなく、働く者に不当な扱いをする会社を問題視するように変わりつつある。勇気を出して声を上げてほしい。

◆認定件数高止まり
【過労死と過労自殺の現状】 厚生労働省によると、過労死の認定件数は過去5年、毎年120件前後で高止まりしている。過労死とは別に統計を取っている過労自殺(未遂を含む)は2014年度、99件で過去最多だった。労災申請をしていない事例もあるとみられ「認定件数は氷山の一角」との指摘もある。14年11月に施行された過労死等防止対策推進法に基づき、国は7月に過労死と過労自殺ゼロを目指す対策大綱を閣議決定。20年までに、週60時間以上働く人の割合を5%以下に、有給休暇の取得率を70%以上にする目標を掲げた。

(社会部・戸川祐馬、立石智保)

夫を亡くした悲しみを打ち明ける三輪香織さん=23日午後、名古屋市中村区で
夫を亡くした悲しみを打ち明ける三輪香織さん=23日午後、名古屋市中村区で