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【暮らし】マイナンバー、勤め先以外へも提示必要

2015/10/15

 住民1人1人に番号を割り当てるマイナンバー制度。今月、通知カードの配布が始まった。番号を勤務先に知らせることが求められているが、実は勤め先以外にも番号を教えなくてはならないことも。番号の提示は強制ではなく、戸惑う人も出てきそうだ。そうしたケースについて考えた。

 「来年からは本の著者に番号を教えてもらわなくてはならない。でも、マイナンバー制度に反対の人もいる。本当は自分も番号を聞きたくないんですけれども…」。東京の出版社社長の男性は、こう困惑する。

 通知カードを受け取ったら、会社員は本人と扶養家族の番号を勤め先の会社に知らせる。企業は、社員ごとの書類に支払額や個人番号などを記載して税務署に提出することになる。

 勤務先に番号を知らせる必要があるのは、正社員だけではない。来年一月以降は短期のアルバイトも、バイト先への通知が必要になる。さらに、本の執筆や講演といった業務を企業から請け負った、生命保険から保険金の支払いを受けた、証券会社に新規口座を開設したといった、さまざまな形で企業からお金を受け取る個人が、相手先企業に番号を教える必要が出てくる。

 通知カードが届いたら勤務先に番号を知らせることは、徐々に知られてきてはいる。とはいえ、アルバイトだけでなく、さまざまな形でお金のやりとりがある人も番号を提示する必要があることは、広く知られているとは言いがたい。また、税務署への提出書類に番号の記載がなくても受理はされるが、載せない場合、企業はそれなりの手続きを踏まねばならない。

 「個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律で定められた義務であることを伝え、提供を求めて」。国税庁は、企業の担当者らに向けてホームページでこう呼び掛ける。それでも駄目なときはどうするか。「提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください」と、なかなか骨の折れそうな作業を求めている。

      ◇

 企業は、番号を集めるときの本人確認や、収集した情報の管理に厳重さが求められる。この事務負担は小さな会社ほど大きく、自社の体制に不安を持つ会社も一部にある。教える側にも「信頼性がある会社はともかく…」との思いも。

 個人が企業に駐車場やアパートの部屋を貸しているとき、駐車場代や家賃の合計が年間15万円以上なら、借り手の企業は支払い調書に、貸主の個人番号を記入して税務署に提出する。しかし、借り手の企業が駐車場代や家賃の滞納を続けていたら貸主は、自身の番号を教えたくはない。

 名古屋市の不動産鑑定士、田井能久さん(49)は「支払いが遅れがちな企業が重要な個人情報の保守管理をきちんとしてくれるのか、と疑問に思うのは当然」と言う。「企業がマイナンバーを広範囲に漏らして倒産したらどうなるか」と続ける。

 こうした疑問に対し、国税庁課税総括課は「ホームページで説明している通り」とする。支払い調書などに番号が記載されていなくても罰則はなく、情報漏れを気にする個人が、企業との関係も考えて悩むことも出てきそうだ。

 (白井康彦)