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【社会】偽装請負を訴えた果てに… 告発者に厳しい年末

2008/12/21

 企業の違法な偽装請負を内部告発した派遣労働者が、十分な理由もなしに契約を打ち切られ、失業したまま厳しい不況の波にさらされている。二〇〇六年施行の公益通報者保護法は、正規・非正規労働者を問わず、内部告発者の差別的待遇を禁じる。労働者側は「内部告発者の雇用を法的に保障する必要がある」と訴える。 (菊谷隆文)

 「毎日、ハローワークに行っても仕事は見つからない。今では失業者が急増し、職に就くのがますます厳しい」。徳島県小松島市の島本誠さん(35)はため息を漏らす。

 島本さんが発光ダイオード製造大手「日亜化学工業」(同県阿南市)の工場で働き始めたのは四年前。人材派遣会社から請負と説明されたが、携帯電話などのバックライトの製造ラインで正社員と一緒に働き、正社員から指示を受けた。

 請負ならば、日亜化学工業が人材派遣会社に発注した業務を行うだけで、日亜化学工業側から直接、指示は受けない。実態は請負を装った違法な派遣労働だった。

 年収は同年代の正社員の半分の約二百三十万円。昇給やボーナスもなかった。待遇を改善しようと、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)徳島地方本部に相談。職場仲間と労働組合を結成し、一昨年十月、偽装請負を告発した。

 告発から一カ月後、日亜化学工業は約千六百人の派遣労働者のうち、勤続三年を超えた人から契約社員の採用試験を行うことをJMIUと約束。翌年の試験で島本さんを含む組合員十人全員が面接で不合格になった。その後、島本さんら組合員六人は、工場内の緑地管理などを行っている日亜化学工業の子会社に派遣先が変更された。

 仕事は工場内の植木剪定(せんてい)や落ち葉掃除。組合員の一人は「子会社の幹部から『組合に入ったから社員になれなかったんだ』と露骨に嫌みを言われた」と証言する。六人は今年九月、契約を更新されずに職を失い、人材派遣会社との契約も解除になった。

 島本さんは妻と長女(7つ)と病気がちの両親と暮らす。年の瀬になっても新しい職は見つかっていない。「待遇が良くなると思ってやったことで、逆に職を追われてしまうなんて…」。島本さんに悔しさが募る。

 JMIUは、日亜化学工業が組合員を契約社員に採用しなかったのは、不当労働行為に当たるとして、徳島県労働委員会に申し立て、係争中。日亜化学工業は「公平な採用試験の結果、合否を決めた。組合員に差別的な取り扱いをしたことはない」としている。

◆『雇用保障』の条文化を

 公益通報者保護法の趣旨が軽視されている現状について、労働問題に詳しい大阪弁護士会の村田浩治弁護士は「非正規労働者はただでさえ、正社員よりも容易に切り捨てられる。偽装請負などを告発した場合は、直接雇用を保障する措置を条文化する必要がある」と指摘する。

 大阪高裁は四月、電機大手パナソニックの子会社の偽装請負を告発し、差別的待遇を受けたとして、元期間従業員が雇用確認などを求めた訴訟の判決で、内部告発の報復だったと認定した。

 元期間従業員の吉岡力さん(34)によると、告発後、製造ラインから一人きりのディスプレー修理に職場を変更された。職場は廃棄物置き場の一角で、黒いビニールシートで覆われていた。

 契約期間が終了すると、更新されずに失業した。

 内部告発は同法施行前だったが、大阪高裁は「法律の趣旨は適用される」とした。吉岡さんの代理人、村田弁護士は「内部告発者の冷遇を変える判決だ」と話す。だが、会社側が高裁判決を不服として上告したため、吉岡さんの雇用は実現せず、アルバイト生活が続いている。

 <偽装請負> 派遣労働者を派遣先の企業が指示して働かせながら、人材派遣会社との間で請負契約を結ぶ違法行為。製造業派遣が禁止されていた時代に脱法的に広がった。2004年の労働者派遣法改正後も、3年以上継続して働いた派遣労働者の雇用が派遣先企業に義務付けられたため、偽装請負が続いた。正社員と同じ業務を低賃金で強いるケースが後を絶たない。

日亜化学工業の偽装請負を内部告発した島本誠さん(中)と組合員。全員、失業したままだ=徳島県小松島市で
日亜化学工業の偽装請負を内部告発した島本誠さん(中)と組合員。全員、失業したままだ=徳島県小松島市で