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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 酒造り

2008/12/04

熱い米 手で感触探る

 芳(かぐわ)しく甘美なあの液体の季節が、今年もまた巡って来た。微生物の働きで米のでんぷんが糖に、糖がアルコールに変わる-何て神秘だろう! 発酵と酒蔵のロマンを体感すべく、関谷醸造(設楽町田口)の門をくぐった。
 同社の吟醸工房(豊田市黒田町)は、昔ながらに手作業で仕込んでいる。蒸し米を冷まし、こうじ菌を植え付けるまでの仕事をさせてもらった。

 ご飯や酒の幸せな香りがほのかに漂う蔵の、二重の扉を抜けた先の一室。幅一・五メートル、奥行き四メートル、布をかぶせた木枠の中央で、蒸し上がったばかりの米百キロが山になって湯気を立てていた。これから素手で山を崩し、固まりをほぐしながら枠全体に広げ、徐々に米の温度を下げていくのだ。

 恐る恐る山の端っこを崩してみる。アツッ。思わず手が引ける。ところが隣で杜氏(とうじ)の荒川貴信さん(35)は、山の中央付近にためらわず手を突っ込んでは米の固まりを引きはがしている。「いや、熱いですよ」とさらり。ならばこちらもと、真ん中に近いところに手を入れる-アツーッ。というか痛い。

 全体に広げると、布を巻き上げて米を中央に寄せ、また全体に。午後も続け、こうじ菌をまいて再び同じ作業。計八回ほど繰り返した。熱さは収まったものの、腰が痛くなる。米が手に付き、ほぐすどころかかえって固めてしまっているような気も。荒川さんは一貫して、手のひらで円を描くように丁寧に広げている。もしや-。「そう、手で米の感触を確かめています。米の種類や天候により、仕込み方も変わってくる」

 機械を使うことが多い今でも、人間の五感が仕込みの基本なのは変わらない。作業後、両手の指に小さな水ぶくれができていた。白い楕円(だえん)形の発する柔らかな痛みが、酒米からのメッセージのようでいとおしかった。(日下部弘太)

    ◇

 【メモ】関谷醸造では、仕込みのある10月から翌年5月ごろまでは週休1日。夏場は休日が多い。初任給は20万円程度。資格は特に必要ない。「お酒に興味がないと厳しい。下戸でも構わない」と本社杜氏の遠山久男取締役(50)。吟醸工房で仕込みを体験できる。

蒸し米を冷ますため、ほぐしながら広げる荒川貴信さん(左)ら=豊田市の関谷醸造吟醸工房で
蒸し米を冷ますため、ほぐしながら広げる荒川貴信さん(左)ら=豊田市の関谷醸造吟醸工房で