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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 種なし巨峰農家

2010/08/25

丁寧に一房育て上げ

 今年六月、種なし巨峰の初出荷を取材して、新城市が特産地であることと、あの大きな種がない巨峰があることを恥ずかしながら知った。食べやすくなった「ブドウの王様」はどうやって生み出されるのか。初出荷で取材した日吉地区の栽培農家南谷茂夫さん(81)を訪ねた。
 自宅近くにあるブドウ棚は高さ一・六メートルほど。中腰にならないと頭が棚に付いてしまう。所々から巨峰の房を包んだ白い紙袋がぶら下がる。南谷さんと妻の美恵子さん(74)は棚に掛けておいたはさみを手にすると、袋ごと切り取り始めた。

 はさみを貸してもらって右手に持ち、紙袋に近づく。言われたように紙袋の下の方を左手の指でつまみ、紙袋の上から出ている軸を切る。袋がひっくり返って房の重みがズシンと伝わってきた。

 弾みで袋が破れて房が落ちてしまわないか不安になる。それがいやで、軸を指で挟んで切っては、残る指で新たな軸を挟んで切るようにしてみた。三袋しか指に挟んで持てず、そのたびにケースに置きに行かなければならない。南谷さんは五袋挟んではケースに入れていく。

 真夏の午前八時すぎ。すぐに汗が噴き出し、腰も痛くなってきた。「腰にくるでしょ」。見ていた南谷さんが笑う。再び袋の下の方を指で挟んで切り取るようにすると、どうにか五袋まで挟めるようになった。

 「余分な房を落としたり、一房を三十粒前後にする摘粒作業をしたり、収穫するまでに作業がいっぱいあるんです」と南谷さん。栽培面積は二十五アールで、十アールにつき三千房を目標にしているという。植物ホルモンを使って種ができないようにする作業も一房ずつ二回にわたってやらなければならないというから大変な手間だ。

 三人で百五十房を採り、この日の収穫は終了。汗でずぶぬれになった感じだ。南谷さん夫婦はケースを軽トラックの荷台に載せて帰宅。紙袋が取り除かれると形のそろった巨峰が並び、作業場に運び込まれた。

 南谷さんは一房ずつパックに入れてはかりに乗せ、重すぎると余分な粒をはさみで切り取っていく。「作業は丁寧にやっとかんと。小さなうちから手を入れないと房がきれいにならない」。そうして育て上げた一房一房を「わが子のようなもの」と言い、「少しでも良いものをつくりたいという気持ちが大切だと思ってます」。巨峰栽培四十一年目。頭が下がる思いがした。(稲垣太郎)

 【メモ】JA愛知東の巨峰部会は新城市内の35戸からなり、ハウス8ヘクタール、露地4ヘクタールで計120トンを生産。後継者不足から栽培の講習会「農業ワーキングホリデー」の受講者を春に募り、12人が参加している。

紙袋をかぶせた種なし巨峰を収穫する南谷茂夫さん=新城市日吉で
紙袋をかぶせた種なし巨峰を収穫する南谷茂夫さん=新城市日吉で