2010/07/28
俊敏なアユに汗だく
暑い夏が来た。市街地のコンクリートジャングルを離れ、清流を抜ける涼風を感じる仕事をしたい。岡崎市額田地域を流れる男川にかかる「男川やな」を目指した。
伝統的な、竹の上でのアユのつかみ捕り漁を気軽に体験できる観光施設。「朝の大切な日課を知ってほしいから早めに来てね」。おかみの梅村成美さん(63)に言われた通り、午前十時の営業開始の一時間前に“出勤”した。
ベテラン従業員の石井俊光さん(64)に同行し、近くの山へ。林の中で、水が流れる音が聞こえる。アユが泳ぐいけすに水を引き込む沢だ。「きれいな水があるから、アユは生きられる」と石井さん。沢に設置された取水口を念入りに点検し、川底にたまった落ち葉や枝を取り除いた。
爽快(そうかい)感に包まれながら山を下りると、いけす内のアユを、やなに移す仕事を任された。手本を見せてくれたのは、アルバイト歴四年という大学生天野高広さん(21)。十匹ほどを網で一気にすくい上げ、やなにつながるパイプに次々に投入した。
簡単そうに見えたが、いざ挑戦してみると、アユはいけすを縦横無尽に逃げ回り、網になかなか入らない。やっと何匹か捕まえても、ピチピチと元気に跳ねて、飛び出してしまう。繁忙期とあって、お客さんはひっきりなしに訪れる。汗だくになって作業に打ち込んだ。
少し慣れてくると、やなの上でアユを追う客の歓声が聞こえるようになった。子どもたちに、捕まえたアユをくしに刺して塩焼きする手順を梅村さんと教えた。アユの血がにじむのを見て、顔をしかめる子がいると、梅村さんは「魚の命をいただいて、人は健康に暮らせるのよ」と優しく語り掛けた。「自然の恵みに感謝する心を現代っ子に伝えられるのはこの仕事の一番の魅力」。やりがいに満ちた表情が印象的だった。(相坂穣)
【メモ】観光やなを設置するには、河川を管理する自治体の許可を得るなど複雑な手続きが必要。働く上での資格は不問だが、梅村さんは栄養士の資格を持ち、元小学校教諭でもある。「やなは飲食営業だし、お客さんは子どもも多いので役立つ」と胸を張る。夏の最盛期には売り上げが五十万円を上回る日もあるが、冬の収入は少ない。「年収は教師時代の半分以下」という。バイトの時給は七百五十円から。
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