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【愛知】働く場開拓へ、高齢者に新事業 春日井の人材センター

2010/07/18

 長く続く不況が、春日井市シルバー人材センター(瑞穂通一)の受注に影を落としている。本年度の実績は6月までで前年同期に比べ3割もの大幅減少。現役を退いた後も生きがいづくりに打ち込むお年寄りたちのため、新規事業の開拓で活躍の場を確保しようと必死だ。

 「入会したいが、年会費3000円に見合う仕事はあるのか」。同センターで毎月1回開かれる入会説明会。就業の機会を求めて集まった参加者からは毎回、同じ質問が飛ぶ。

 2008年秋のリーマンショック以降、従来の5倍の50~60人が集まる関心の高さになったものの、実際に入会する人はわずかだ。ピーク時に800人いた会員も、09年度末現在では627人(男性478人、女性149人)に減っている。

 「ハローワークで仕事にあぶれた人が、生活費を稼ごうと訪れるケースが多いが、健康維持や地域参加などを目的とするセンターの性質上(給与面の)期待に沿うのは難しい」と伊藤弘事務局長。

 受注実績の低下も入会意欲をそぐ。説明会で現状を知った人たちが入会をためらうことも、入会者の少なさの背景にある。

 そこで切り札として期待されるのが、10年以上前から着々と進めている新規事業の開拓だ。例えば洗車コーティング事業や手工芸品の制作販売、剪定(せんてい)した枝葉のチップ化事業など。

 「シルバーの仕事」といえば、家事援助や庭木の手入れ、除草といった単純作業が中心だったが、新規事業の場合、職員と会員が一緒に頭をひねり「自分たちの経験と粘り強さを生かせる仕事」を探すスタイルだ。

 近年の成長株は、のぼり、横断幕製作の「のぼり旗工房」。パソコン操作が得意な会員がインターネットでPRすることを提案し、専用のホームページを作ったところどんどん注文が舞い込むようになったという。

 実際、センター内の工房を訪ねると、週2日の出勤で作業を進めている男性会員2人が、喜々としてデザイン画制作や旗の縫いつけに熱中していた。

 「シルバーに入って初めてミシンを使うようになったけど、結構おもしろいねえ」と笑ったのは、建設会社でパソコンによる製図を担当していた伊藤明さん(67)=浅山町。

 「見てよ、このホームページ。現役時代の技が生きてるんだよ」とうれしそうだったのは、元会社員で営業マン時代にパソコンを駆使していた山本秀夫さん(68)=熊野町。

 伊藤事務局長も「一枚から気兼ねなく注文できるのが受けているようだ」と話す。07年9月の事業スタートから2年半で87件を受注し、計5072枚を納めている。

 新規開拓の場合、会員同士が自由に意見を出し合って挑戦分野を決めたり、PR戦略を練ったりしていくため「シャキッとする」「生活に張り合いが出た」といった効果も聞かれる。

 昨冬の民主政権による事業仕分けでは、厚生労働省のシルバー人材センター援助事業が「民間の業者を圧迫する」といった指摘も受けたが、伊藤事務局長は「本来の目的に合致しつつ、より多くのお年寄りの就業意欲を満たすことができるはず」と自信を持つ。同センターは、年内にも新たな独自事業に乗り出す見通しだ。

新規事業の一つ「のぼり旗工房」の仕事で作業に励む山本さん(左)と伊藤さん=春日井市瑞穂通の市シルバー人材センター内の工房で
新規事業の一つ「のぼり旗工房」の仕事で作業に励む山本さん(左)と伊藤さん=春日井市瑞穂通の市シルバー人材センター内の工房で