2010/04/29
二〇一一年春採用の学生の就職活動が、ヤマ場を迎えている。不況で採用抑制が続き、「氷河期再来」といわれる中、就活生は悪戦苦闘。特に今春、就職が決まらないまま卒業した「再挑戦組」には、長い冬が続く。一方、「優秀な人材を確保するチャンス」と、熱心な採用に乗り出す中小企業もある。 (片山健生、福沢英里)
「今後の就職活動の成功を人事部一同お祈りしています」-。愛知県内の私立大四年の黒野竜也さん(22)は、企業から携帯電話に届いた不採用のメールにため息をついた。就活生の間で「お祈りメール」と呼ばれる不採用通知。「もう十社ぐらいにもらったかな」
営業職志望で、昨年十二月から大企業中心に百社近くに挑戦。だがエントリーシートや筆記試験で落ち続けている。「落とされる明確な理由が分からない。シートをもう一度見直し、面接にたどりつきたい」と奮起する。
現役生より悲壮な決意で就活に臨むのは既卒者たちだ。今春、金城学院大(名古屋市)を卒業した三重県の女性(22)宅に、最後の不採用通知が届いたのは三月二十五日。卒業式は一週間前に終わっていた。「最終面接の反応は良かった。がくぜんとして、何もかも嫌になりました」
一昨年秋から、銀行や商社など百社余にアプローチしたが、大半が書類選考で落ちた。四年の夏には「自分が駄目だから認めてもらえない」とうつ状態になり一カ月間、自室に引きこもった。この四月から再び、説明会などに足を運ぶ。「一学年下だった人たちと一緒に就活するのは、正直つらい」と打ち明ける。
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一〇年春卒の大学生の就職内定率は二月一日時点で80%と、二〇〇〇年以降で最低。既卒未就職者は増えているが、新卒にこだわる企業は多い。そこで、卒業単位を満たしていても留年を認める大学も出てきた。
愛知工科大(愛知県蒲郡市)は今年初めて、在籍料減額などの「卒業延期制度」を導入した。就職できなかった岐阜県本巣市の男性(26)が制度を利用したのは、昨年の合同企業説明会で既卒を理由に断られる人を目の当たりにしたからだ。「留年できてホッとした。でも面接で留年理由を問われたら、どう答えたら…」と新たな悩みも。
人材派遣の「パソナ」(東京都)は今春、該当の既卒者を契約社員として採用し、希望企業への就職を支援する「フレッシュキャリア社員制度」を設けた。参加者は約四百人。提携企業で働きながら、無料でビジネスマナーなどを学べる。
坪田潔・東海営業本部長は「最近の若者はコミュニケーションが苦手だが、指導すればできるようになる」と、若者の就職問題に社会全体で緊急に取り組む必要性を指摘した。
◆中小企業 “攻めの採用”も
名古屋市にある東陽機械製作所は、従業員九十七人ながら、年商四十億円の包装機械トップメーカー。私立大工学部卒の国嶋秀俊さん(25)は三年前、大企業の内定を辞退して入社した。
大手食品メーカーなどの顧客のニーズに合わせ、世界に一つしかない機械の設計から組み立てまですべてを手がける。「会社の規模ではなく、仕事の内容で選んだ」と国嶋さん。若手でも、自分が手掛けた機械は最初から最後までかかわる。「“大きなプラモデル”を一人で一台つくる」魅力にひかれた。
同社は十年ほど前から大卒の定期採用を始め毎年二、三人、採用している。大手企業も採用を抑える中、学生向け情報誌への掲載や企業展でのPRなど、あらゆる方法で優秀な人材を確保しようと力を入れる。
特に重視するのが会社説明会。学生に機械に触れてもらい、先輩社員が話をして、具体的な仕事のイメージを伝える。部谷(とりや)政義社長(44)は「入社後のギャップがないよう、納得して来てもらう。こちらも将来的に活躍してくれる人材かどうか、真剣に見極める」と語る。
国際物流企業「ジャパントラスト」(同市中区)で営業を担当する伊藤なつ美さん(25)は、最初から中小企業を志望していた。「大企業の歯車として働くより、自分がやりたいと思ったことを実行できる規模がよかった」と語る。
同社は、最終選考に残った学生が社員のお花見に参加するなど、ユニークな採用活動を展開。「社長と社員との関係がよく分かりました」と伊藤さんは振り返る。今は、社長と一緒に営業先を回ることも。「社長の仕事のノウハウを少しでも盗みたい」と、入社時と変わらぬ意欲で仕事に取り組んでいる。
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就職情報会社ディスコ(東京都)のまとめでは、大学生が就活の中心とする企業規模はこのところ、大手志向が続いていた。だが今年三月、二〇一一年春卒の大学生を対象とした調査では、「企業規模にこだわらない」「中堅中小企業を中心に」という学生が増えた。
中小企業の採用活動と学生の就職活動を支援する「インテルプレス」(名古屋市)の平野太社長(33)は「求人倍率でみれば、大企業より中小企業の方が入りやすく見えるが、不況で求人数の減少も大きく、就活の厳しさは同じ」とくぎを刺す。
ただ地域の優良な中堅企業の情報は、ネット上にはない場合も多い。大学の就職支援課や地元商工会議所が企画する企業展などに小まめに足を運んで情報を探し、OB訪問などで地道に多くの人と会い、話を聞くことが大事だという。
最近は個人情報の管理が厳しく、OB訪問も難しいが、平野社長は「そこで働く人に直接話を聞こうという熱意が欲しい。ぜひ経営者に直接話を聞き、将来のビジョンや仕事への考え方に共感できるかどうかなどを見極めて」とアドバイスする。
新四年生には間に合わないが、早いうちからインターンシップ(就業体験)に取り組むのも有効。個人が参加できるインターンシップには限界があるので、同級生と体験や感想を共有し業界研究の一つとして取り入れたい。
親を味方につけておくことも重要。「せっかく内定を得ても、名前も聞いたことがない会社だからといって、親に就職を妨げられることがある」と平野社長。仕事の内容や会社の雰囲気を説明し、理解を得ておきたい。
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