2010/02/18
「ウォークマン」などソニーの代表作を生み出したデザイナー片岡哲さんと提携する製品デザイン会社「ファナクション」が昨年8月、坂井市丸岡町北横地に誕生した。代表を務める酒井敏光さん(53)は、障害のある娘の介助を機に転職。障害者も健常者も座りやすいクッション製作を追求している。
家業のガソリンスタンドで働いていた酒井さんは24年前、脳性まひで重い障害のある利佳(りか)さんを授かった。生活は一変、介助中心となった。
「スタンドを続ければ、いつか利佳を重荷に感じてしまうのではないか」。迷っていたとき、福祉用具製作の仕事への誘いが舞い込んだ。当時、県内に福祉用具の製作所はなかった。酒井さんは38歳で転身を決意。1年半の修業を積み、福井市内で会社「Lee製作室」を設立した。社名は娘の愛称「りーちゃん」から付けた。
障害者自立支援法が施行された2006年、酒井さんは坂井市に移り、いすやクッションのフルオーダー製作を始めた。体の変形に合わせてウレタンを型どりし、介助のしやすさを重視して、側面を取り外し可能にした。娘と妻の要望から生まれた「Leeチェア」は、寝たきりだった人も座ることが可能になった。
「座ると目線はみんなと同じになり、寝たきりで衰えた体は元気になる。座ることを保障するのは、人として生きていくことを保障することだと思う」
09年1月、参加した産業イベントがきっかけで片岡さんと出会った。数々の世界的な賞を手にしていた片岡さんが、使用者の座りやすさを追求していた酒井さんに声を掛けた。「新しいクッションを作りましょう」
「ファナクション」を共同で設立。酒井さんは、座ると空気が移動して腰の部分が膨らみ、楽な姿勢が保てるクッションを考案した。デザインは片岡さんが担当し、09年のグッドデザイン賞に入賞。首都圏の大手百貨店でも取り扱われるようになった。
「利佳がいなかったら、ずっとガソリンスタンドを続けていたかもしれない。障害者も健常者も、1人でも多くの人が喜ぶものを作り続けたい」。自分の背中を押すように、酒井さんは言った。
(増田紗苗)
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