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【暮らし】『就職に有利』強引に勧誘 大学生ターゲット 自己啓発講座、英会話…高額契約

2010/02/11

 大学生の就職難が深刻化する中、「就職に有利」をうたい文句に、学生が英会話教室や自己啓発セミナーなどに強引に勧誘され、トラブルになるケースが増えている。中には、入会した大学生に新規会員勧誘を競わせる業者もあり、国民生活センターが注意を呼び掛けている。 (安藤明夫)

 「思い出すのもつらい体験です」と、東京の私立大四年の美紀さん(22)=仮名=は振り返る。昨冬、先輩の女子大生から食事に誘われた。就職活動について話すうち「尊敬できる人がいる。勉強になるので紹介したい」と勧められた。

 後日、メールで指定された場所に出掛けると、学生や若い社会人を対象に自己啓発セミナーを開催している会社だった。個室で、スタッフの女性と先輩から「就職のために自分の力を磨こう」と約一時間半にわたって、入会を勧誘された。ためらったが「二十歳を過ぎたら自分で決めなきゃ」と言われ、その場で契約した。

 このスタッフの担当する班には十数人の大学生がいて、クラブ活動のような雰囲気。合宿形式のセミナーもあって、徹夜で大声を出したりするうちに、仲間意識が高まった。頻繁に事務所に通うようになると「自分を磨くステップ」として友達の勧誘を指示された。電話で食事に誘って、脈ありなら事務所に連れてくる、という手順を教わり、「嫌だな」と思ったが、班内の獲得競争に負けたくないと、数人に声をかけた。心配した両親や恋人に説得されて、悩んだ末に退会を決意。誘った友人にも謝罪した。

 在籍した半年ほどの間に、入会金、毎月の会費、合宿費用などで出費は約二十万円。就職が決まった今は「得られたものは何もなかった。世間知らずだった」と反省する。

      ◇      

 国民生活センターの調べでは、就活中の大学生を対象にした勧誘トラブルは、二〇〇四年度以降、千四十四件の相談が各地の消費生活センターに寄せられている。その数は年々増加、〇九年度も昨年九月末現在で前年度同期を上回っている=グラフ。

 相談の内訳は、英会話教室など六百二十二件(59・6%)、資格講座九十五件(9・1%)、自己啓発セミナーなどの精神修養講座九十五件(同)、パソコン教室五十八件(5・6%)など。

 会社説明会の帰りに呼び止められた愛知県の男子大学生(21)は、アンケートに答えたら、電話で「就職に役立つ話が聞ける」と勧められた。個室で長時間説得され、六十万円近い英会話学校の契約をした。神奈川県の女子大学生(22)も、会社説明会で知り合った大学生に「自分を高め、やる気が出て、お金もうけもできる」と自己啓発セミナーに誘われた。断っても何度もメールが来る。

 同センターが問題点に挙げるのは、「就職活動で困っていることは」などアンケートへの回答を求め、連絡先を記入させる▽勧誘目的を隠して「就職に役立つ話が聞ける」などと呼び出す▽個室で長時間、勧誘する▽「このままでは就職がうまくいかない」「なぜ親に相談するのか」などと強引に契約させる▽大学生にとって高額な契約が多く、数年にわたるクレジットを結ばせている-など。

 悪徳商法被害者対策委員会(東京)の堺次夫会長は「大学は、社会経験の乏しい同世代の若者が多数集まるため、昔から悪質商法の標的になってきた。就職氷河期で、将来に不安を持つ学生が増え、リスクがさらに高くなっている」と話す。