東京の出版社「すばる舎」で働く水沼三佳子さん(48)=東京都板橋区。本業は編集者だが、毎週決まった時間に副業で訪問介護の仕事をするヘルパーとしての顔も持ち合わせている。訪問介護の有効求人倍率は14・14倍(2023年度)と、人手不足が特に顕著な業種。ただ、サービス提供の時間が利用者ごとに細切れになっており、短時間でも働きやすいという側面もある。どんな思いで訪問介護に取り組んでいるのか、本人に取材した。(大野雄一郎)
「週1時間」の求人
「社会的に必要な仕事ができている充実感を、よりダイレクトに感じられています」。21年4月からヘルパーの副業を始めた水沼さんは、介護職へのやりがいを口にする。
副業を検討し始めたのは、40歳を過ぎた頃だった。新卒で出版社に入り、編集一筋。「すごく好きな仕事だけど、常に新しいアイデアが求められるきつさもある。デスクワークではなく、体を動かす仕事もしてみたかった」。もともとおばあちゃん子で、お年寄りと接するのが好き。認知症の母の世話で介護現場の人たちと接する機会が多かったこともあり、介護の世界へ飛び込むことにした。
ただ、本業への影響を考えると、捻出できるすきま時間は週に1回、数時間しかない。「そんな虫のいい働き方ができる職場があるんだろうか」。半信半疑で求人を探したところ、訪問介護の「登録ヘルパー」に行き当たった。施設系の介護職は比較的長時間働ける人材を求めていたのに対し、訪問介護は「週1時間からでOK」という求人も複数あった。「私にうってつけ」。方向性が固まった。
介護職員初任者研修を受けた後、実際に就労。副業にあてているのは毎週金曜の午前中のみで、今は30分間と1時間の各1こまを受け持っている。利用者のおむつ交換や食事介助、洗濯や掃除などを行い、昼にいったん帰宅して制服から着替えた後、午後にはすばる舎へ出勤するという流れだ。「これが毎日だと思うときついけど、このペースなら楽しい。お年寄りの身の回りがきれいになっていき、こちらも気持ちが良くなる」と話す。
◆本業にもプラスに
こうした働き方を実現できたのは、本業が裁量労働制で、福祉関係の副業に寛容だったから。ヘルパーの経験が高齢者向けの本のアイデアにつながるなど、思いがけない相乗効果もあったという。「人手不足といわれる業界だけど、少しずつみんなで仕事をシェアするという考え方もできる。ヘルパーはこれからもずっと続けていきたい」
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◆ケアの質も確保 識者指摘
人手不足の解消策としては近年、短時間・単発で働く「スポットワーク」が注目を集めている。介護業界でも導入が進んでおり、未経験者でも働ける業務を担ってもらうことで介護事業者との接点をつくるなどの効果が期待されている。
ただ、ケア労働に詳しい実践女子大の山根純佳教授によると、利用者のお年寄りとじかに接する仕事では「利用者と職員との関係性が重要になる」ため、単発のスポット的な働き方は「質の高いケアにつながりにくい」という面もある。
その点、短時間でも毎週同じ利用者と接する水沼さんのような働き方であれば、こうした懸念は解消できる。山根教授は「訪問介護は常勤の職員がきちんとマネジメントすることで専門性が発揮される仕事。登録ヘルパーだけが増えればいいというわけではない」と断った上で、「『みんなでケアする社会』という考え方には合致する働き方だろう」と話している。