豊橋市の豊鉄観光バスで、71歳の岡田京子さんが現役のバスガイドとして活躍している。明るく楽しい語り口に、人生経験の長さを生かしたこまやかな心遣い。それが乗客の心をつかみ、岡田さん目当てのツアーも企画されている。 (中山梓)
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「いつもご利用ありがとうございます。非常扉は右奥にあります。ご確認してください」。観光バスの出発時、岡田さんはすべての乗客に目を配りながらマイク片手に呼び掛ける。今は月に数回乗車し、観光地を案内している。
豊橋市内の洋裁学校に通っていた19歳のころ、バスガイドを募集する求人広告が目に留まった。「話すのも歌うのも好きだから」と親に内緒で応募。就職が決まり、バスガイドになった。
25歳で結婚したのを機に退職したが、子育てが一段落した20年後、会社の誘いでアルバイトとして復帰。旅の行程を管理する添乗員の資格も取得し、添乗員とバスガイドを務めながら、北海道から沖縄までを飛び回ってきた。
足の不自由なお年寄りにも旅行を楽しんでもらえるように、途中休憩の場所や宿泊施設まで気遣い、情報収集や行き先の勉強を重ねてきた。移動中も退屈させないようにと、車内では「箱根八里」など各地の歌を披露。独学で覚えた詩吟を吟じることもある。
いつしかファンが増え、岡田さんとの旅行を目当てにするツアー「京童会(きょうわらべかい)」ができた。「岡田さんがガイドだと客席を全て任せられる」と運転手の信頼も厚い。
「好きな仕事をしているのが元気のもと」と岡田さん。「ガイドを続けるからには、会社のイメージダウンになってはいけない」と、新城市内の自宅からバス会社まで1時間余りかけてマイカーで出勤する途中、あいさつや歌の練習を重ねる。他社のバスに乗った際は、ガイドのマイクの使い方を研究するなど向上心は尽きない。
長年の立ち仕事で腰痛を患い、そろそろ引退も考えている。バスを降りても、ガイドの経験を生かして民話などを語るボランティアを続けるつもりだ。
7月は北海道、8月は秋田県へのツアーが控える。「体調が悪い時があっても、お客さんの顔を見ると治っちゃう。この仕事が好きなんでしょうね。天職かもしれんね」。小柄な体で大きなバスを見上げる岡田さんは、バスガイド人生を誇らしげに振り返った。