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【暮らし】なくそう長時間労働/「トラック野郎は今」編

2017/11/24

 人体に例えるなら「動脈硬化」といえるだろう。高度成長期からバブル期まで、日本の隅々にものを届け、自らも稼いできた「トラック野郎」は、今や老いた。これまでの二回(十月三十日、今月六日)では、長時間労働や給与外の仕事もさせられるようになり、若者がこの仕事に背を向けている様子が浮かび上がった。現状でも主力は四十、五十歳代。放置すれば安全輸送上のリスクとなりかねない。この現実にどう対処したらいいのか。

 「記事にするなら『都内でトラック五十台の中堅運送会社の五十代男性社長』で勘弁して」。応接室で社長は話した。「私たちの立場は弱いので。仕事を切られるわけにはいかない」。膝の上で両手を組む。

 取材したことをぶつける。実走行時間以上に、荷の積み降ろしを待つ待機時間が長いこと。順番待ちで車から離れられないのに、待機時間の多くが「休憩時間」扱いなこと。本来は荷主側の仕事なのに、「付帯業務」名目で荷の積み降ろしもさせられること…。

 「それを断ったら仕事を切られます。依頼先はどこにでもある。たとえ安い料金であっても」。過当競争の事情を語る。

 「きっかけとなったのが小泉(純一郎)政権へと至る規制緩和でした」という。かつてトラック事業を起こすには旧運輸省のチェックを受けての免許が必要だったが、二〇〇三年には国土交通省に届け出るだけで起業できるようになった。

 「トラックが五台あれば会社が起こせるようになった。『うちはもっと安い』という会社ばかりの中、荷主の言うことに逆らえますか?」。沈黙する記者にさらに続ける。「痛かったのはコンビニやスーパーの拡大です。細かな時間指定で商品を運べという。時間通り持って行っても、『用意がまだ』とまたも待機。荷主も倉庫の人員を減らしたり、余裕がないのです」

 その結果、大型トラックでみると、年間の平均労働時間は二千六百四時間(一六年)と、全産業平均より四百八十時間多い。無給の「休憩時間」にされた「待機時間」を加えたら、その差はさらに広がるだろう。

 なのに年間の平均所得額は四百四十七万円と、全産業平均より約一割少ない。「仕事時間は長いのに給料は人並み以下で昇給の見通しもない。若い人が来ると思いますか? 大型免許を取ってまで」。「運送労働アドバイザー」の現役運転手、梅木隆弘さん(48)=写真=が補足する。

 トラックの運転には、車両総重量に応じた免許が要る。本格的に長距離運送もやるなら大型免許が必要だ。免許が取れるのは二十一歳以上。マニュアル車が運転できる条件がある。オートマ限定の普通免許から取ろうとすれば、教習も含め数十万円かかる。「そこまで金を費やしてドライバーを目指す子は、そういませんよ」と梅木さん。

 国も無策ではない。国交省は今年八月、トラック運送における運賃・料金のルールについての方針を提示。今月四日から施行した。荷主の都合で待たされる場合は荷主に「待機時間料」を払わせること。「付帯業務」も運送費と切り分け、「付帯業務料」を払わせることとした。

 「方向性は正しいが、どこまで国が守らせるか。今までは、コンビニエンス(便利)な暮らしを支えるために運転手は犠牲になってきた。だが、長い目で見た時、若い世代にとって運転手が未来の開ける仕事にしていくことが、日本全体のために大事になる」と梅木さんは話している。