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【暮らし】<なくそう長時間労働> 「合理性」踏まえ見直しを

2017/07/24

◆『なぜ、残業はなくならないのか』の著者・常見陽平さんに聞く

 残業問題に着目した本「なぜ、残業はなくならないのか」(祥伝社新書)が今春出版され、注目を集めている。「残業しなければならないように労働社会が設計されている」として、残業を「合理的」「柔軟な働き方」としつつも、業務量の見直しや労働時間管理で削減を目指すべきと訴える。著者で働き方評論家の常見陽平さん(43)に話を聞いた。

 過労死を防ぐ目的から、残業の削減は、政府の働き方改革でも主要なテーマとなっている。

 「残業が合理的」と、なぜ言えるのか。常見さんは経営側の雇用管理の面から説明する。業務が繁忙期を迎えたとき、新たに人を雇用して一から教育するよりも、割増賃金を払ってでも既に雇用している人に残業をさせた方がコストが安いという考え方だ。働く側も、労働時間は増えるが、給与も増えると受け止める。

 さらに常見さんは「人に仕事をつける、日本的な仕事の任せ方」も挙げる。企業がある事業から撤退した場合、余剰人員を社内の別部門に異動させるなどして、社員の雇用を守る。働く側も解雇される恐怖から解放される。

 その一方で、仕事の範囲は際限なく広がり、一人当たりの業務量が増える。複数の仕事を兼務する場合もあり残業が増えるという。

 常見さんは「残業は労使双方にメリットもある。残業する現状を変えるのは簡単ではない」と指摘する。ただ残業は働く人の健康を脅かす。常見さんは「そもそも業務量が多いのが問題。加えて人員も足りない」と指摘する。

 常見さんは、時間を区切った強制退社といった企業の取り組みを「単に労働時間を規制するだけでは気合と根性で乗り切ろうという対応になりがち。サービス残業が誘発される」と警鐘を鳴らす。

 ではどうすればいいのか。「労働時間の正確な把握が必要」と常見さん。単に出退勤時間の記録にとどまらず、一つの仕事にどれだけの時間がかかっているかを把握する。

 実態把握を基に分析をすれば、業務を外部委託したり、ITを導入したりして労働時間を減らすことができる。また人手不足なら、新たに人を雇うことを考えてもいい。また必要と思っていた仕事でも、時間がかかりすぎで非効率なら、やめる選択もある。

 収入が高い一部の専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ」制度である高度プロフェッショナル制度について、常見さんは、労働時間の削減につながるか疑問とする。

 「働き方の選択肢を増やす」「時間に縛られず効率的に働ける」と利点が語られるが、常見さんは「制度を導入すると、労働時間がどんどん見えなくなってしまう」と不可視化を懸念。労働時間が長くならないよう監視を強めなくてはならないと話す。

 個人でできる長時間労働対策はどうか。常見さんはあらゆる仕事を百パーセントの力でやるのは無理があるとする。「自分の大切にすることを明確にし、仕事の優先順位を決める。時間をかける仕事とそうでない仕事を分けることも必要だ」と指摘する。

 (寺本康弘)

常見陽平さん
常見陽平さん