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【暮らし】他職種と連携、支援の中核に 新たな資格「認定介護福祉士」

2017/07/19

 介護の質の向上に向けて、今春から認定が始まった「認定介護福祉士」。経験や技術にばらつきがある介護職をまとめて、認知症や一人暮らしなど、さまざまな暮らしぶりの要介護者に、自立した生活を支える介護を提供する狙いだ。ただ、介護分野では人手不足や職員の給料の低さが課題と指摘されており、資格取得に必要な研修に参加する時間の確保や費用を懸念する声もある。

 ◇ ◇ ◇

 「特別養護老人ホーム(特養)で入居者が希望したら、ビールを出すか? 出すには、注意点など医師の指示は必要か?」。6月下旬、三重県介護福祉士会が津市で開いた認定介護福祉士の養成研修講座。同県では初の研修だ。講師を務めた京都女子大の太田貞司教授(介護福祉)が、受講した39人に問い掛けた。

 以前は要介護者の世話と捉えられていた介護だが、今では要介護者が自立して生活できるように支援することと理解されている。受講した三重県四日市市の老人保健施設で働く甲斐義典さん(37)は「利用者の生活を見ている介護福祉士が、看護師ら他職種に利用者の希望を伝えることが大事。それには、その人に飲酒が欠かせないという根拠を伝える練習が必要」と話す。

 介護福祉士は要介護者ごとに適した介護を提供するための国家資格だが、制定当時、他職種との連携は想定されていなかった。認定介護福祉士は連携の中核となり、地域で高齢者が自立した生活を送れる環境をつくるよう期待されている。

 もう一つ、認定介護福祉士に求められるのが、介護チームのリーダーの役割だ。介護施設などには、介護福祉士などの資格取得者と無資格者が混在する上、長引く人手不足もあり、若手や外国人も貴重な戦力。こうしたスタッフを指導し、技術を高めさせながらチームをまとめる。

 甲斐さんは、介護職28人を束ねる係長。「これまではリーダーを育てる仕組みがなく、指導や管理の方法を学ぶ機会はなかった。後進の指導方法を身につけていきたい」と話す。

 認定介護福祉士は2011年に厚生労働省が、介護職の離職を食い止めようと、キャリアアップの一つとして導入を決めた。15年に日本介護福祉士会などの関係団体で「認定介護福祉士認証・認定機構」(東京)が設立され、都道府県単位の介護福祉士会などと研修を開き、受講者を認定している。ことし3月には、全国で11人が第1号として認定された。国も、例えば認定介護福祉士がいる施設に介護報酬を上乗せするなど、認定に伴う制度改正を検討していく見込み。

 ただ、増やしていくには課題もある。取得には研修に参加する必要があるが、計600時間を要する。三重県介護福祉士会の場合、受講には4年間かかり、費用は計40万円ほど。助成する施設もあるが、介護福祉士には重い負担になりかねない。

 また、国の制度改正の全体像が見えない段階では、勤務先の施設などで資格取得者が必ず上級職の待遇を得られるのかという不安もある。「研修で学び直し、良いケアに結び付けば職場での評価にもつながる」。認定第1号の1人となった鳥取県境港市の介護老人福祉施設「新さかい幸朋苑(こうほうえん)」介護係長の池淵美香さん(41)は話す。研修の一環で、要介護者の課題ごとに改善状況をグラフにし、全員で共有するようにチームをまとめたところ「達成感が生まれ、チームワークが高まった。課題改善に取り組んでいくことで、認定介護福祉士の必要性が伝わる」と実感する。

 太田教授は「介護の考え方を明確に伝えられる中堅のリーダー職が育てば、現場がよくなり、介護の質も上がる。ぜひ目指してほしい」と話す。

 (出口有紀)

それぞれが抱える課題についてグループで話し合った結果を発表する受講生=津市で
それぞれが抱える課題についてグループで話し合った結果を発表する受講生=津市で