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【暮らし】<要注意!!クラッシャー上司>命の危険編(下) 心に壁作らぬ「EQ」

2017/07/03

 部下の仕事を苦役にするだけでなく、「クラッシャー上司」は人の命をも危険にさらす可能性があることを6月19日の(上)と26日の(中)でみてきた。あらゆる企業・組織の健全な運営のためには、部下の力を引き出す人こそをリーダーに据える必要がある。そのキーワードとなるのが「EQ」だ。

 ◇ ◇ ◇

 引き続き日本航空元機長で航空評論家の小林宏之さん(70)に教えを乞う。愛知県新城市の出身で、42年間に1万8500時間を飛んだ航空安全のプロだ。

 まずは、これまでの二回をおさらいしよう。航空安全から発祥した「CRM」の概念は、今や医療など暮らしの安全を守るあらゆる業界に広がっている。CRMとは「クルー・リソース・マネジメント」の略。その業務の安全は、携わるすべての人の力(資源・リソース)を最大限引き出せるかどうかにかかっているという考え方だ。

 部下を威圧するクラッシャー上司相手では、部下が上司の誤りに気付いても正しにくい。その結果、クラッシャー上司に操縦かんを握らせれば飛行機事故、メスを執らせれば手術は失敗…。そんな可能性も高まりかねない。

 そこで、部下が何でも話しやすく、周囲から協力を得られる人物に求められる資質として、小林さんが指摘するのが「EQ」だ。

 知能指数が「インテリジェンス」の「I」を取って「IQ」と呼ばれるのに対し、EQの「E」は「エモーショナル(心的)」の略。EQは「情動指数」とも訳され、心の豊かさや人間性の高さを表す。IQの高い人は知識や技術の習得もうまい。しかし、EQが低いと周囲に壁を作ってコミュニケーションが取りにくい。

 小林さんは言う。「もちろん機長にとって操縦は重要な技術。ですが、部下の気付きを謙虚に受け止め、安全運航を遂行するにはEQの高さが求められます。技術的なスキル(技量)以上に、コミュニケーション能力などといった心に関わる『非技術的なスキル』が問われるのです」

 長年の謎が解けていく。なぜ仕事はできるのに、頭がいいのに、部下を罵倒するクラッシャー上司となってしまうのか。企業はこれまで、EQという側面はあまり重視せず、個人的な能力や実績を評価する傾向にあった。そのため、仕事ができればEQが低いままでも出世し、部下を持つことになってきたのだ。

 その結果、「周りの人が協力しにくく、結果的にチームとしての仕事の成果は芳しくないものとなってしまう」。小林さんもうなずく。

 では、EQの高い人とはどんな人なのか。小林さんは、(1)自分自身をコントロールすること(2)コミュニケーションを含め、他者との協調に気配りすること(3)置かれた状況を正確に認識すること-の3つを挙げる。逆に言えば、これらを欠くと「クラッシャー上司」になりやすいということだ。

 3回にわたった連載。最後に小林さんはこう結んだ。「私も長年、多くの人を見てきましたが、入社後に伸びる人はEQが高い。周囲の信頼を得て、どんどん伸びて行く。厳しい競争社会にあって、EQの高い社員や上司のいる企業と、クラッシャー上司が存在する企業の盛衰は、目に見えていると思います」

 (三浦耕喜)