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【社会】実習生の残業 月200時間超 岐阜の業者 時間外賃金で裏契約

2017/05/28

 外国人技能実習生を「安い労働力」として頼る構図が、経済産業省の繊維業界を対象にした初の全国調査で明らかになった。下請けの縫製会社が多い岐阜県内の業者が本紙取材に、実習生に適切な残業代を支払わない「裏契約」の実態を明かした。(木下大資)

 「子供は中国に置いて日本に来た。残業で忙しくなるようにしてほしい」

 20年ほど前、受け入れた中国人研修生が残業を希望したため、縫製会社の社長は「一時間300円なら」と応じた、と話す。当時の制度では、1日8時間の研修以外の作業は違法だったが、「労働者」でない研修生に、労働基準監督署の取り締まりは及ばなかった。その頃の最低賃金の半分以下を提示したのは、業界の相場だったからという。

 社長によると、大手アパレルメーカーの海外移転が加速する中、国内の下請けが得る工賃は低く、日本人労働者は集まらない。同業者に「安く使える」と聞いた研修生に頼るようになった。

 1年の研修期間後、労働者として扱われる実習生になっても十分な時間外賃金は払えない。月6万~7万円の基本給に、時間外の時給は300円から少しずつ上げる裏契約を結んだ。近年でも600円ほどだったという。

 実習生は3年ごとに入れ替わる。中国に面接に行く度に「日本では違法だが、残業代で稼げる」と説明し、納得すれば採用した。月200時間以上にもなる残業でも、手取り18万円を受け取ると「彼らは喜んでいた」と社長は主張する。

 元請けに厳しい納期を求められても、長時間労働をいとわない実習生ならこなせた。「安い工賃でも『やります』と言えば、仕事はある。断ればゼロ。実習生を遊ばせておけないし」。依存は深まり、20年近くにわたって続いた。だが、結局、実習生を違法に働かせても採算は合わなくなり、社長は工場を畳んだ。

 実習生の過酷な実態が社会問題化し、技能実習適正化法が昨年11月、成立。今後は違法な業者の取り締まりが強化される。業界には、実習生の残業を減らすなどして適法な賃金体系に改めようとする動きがある。しかし、社長は「工賃が上がらなければ、能率を上げるしかない。縫製業は本当に厳しい」と漏らす。