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【暮らし】メーデーに考える「労働運動」 要求、「お金」から「時間」へ

2017/05/01

 5月1日は労働者の祭典「メーデー」だ。働き方改革が議論される中、労働組合などによる労働運動の意義とは何か、労働問題に詳しい京都大大学院経済学研究科の久本憲夫教授(61)に聞いた。

 -メーデーとは。

 世界的な労働者の祭典。長時間労働を減らし、8時間労働を求める米国の労働運動が発祥だ。日本の「勤労感謝の日」が秋の収穫を終えた農業に基づくのに対し、メーデーは近代化・工業化の中で生まれた。多くの国で休日だが、日本は休日ではない。労働をめぐる日本の現状が表れている。

 -その中で労組の現状は。

 日本の労組は弱くなった。組織率は2割を切り、労組がある会社でも力が落ちている。さらに、日本の労組は高学歴者が多いのが特徴だ。中心の労働力が大卒で、経営陣と労組幹部の価値観や社会階層にあまり違いがない。世界的にも珍しい在り方だ。

 -確かに、労組幹部を経て出世する企業は多い。

 その観点からすると、労組にとっても企業が中長期的に存続することは非常に大切。この意識は経営者より強い。経営者は60~65歳あたりの年代が多く、自分の任期で業績が伸びることが重要。だから、見るのはせいぜい5年先で、30年後、40年後のことは考えない人が多い。


 しかし、多くの企業で従業員は30代が中心。少なくとも20年、30年後まで企業は健全であってほしいと切実に考える。45歳で会社がつぶれては取り返しが付かない。労組の方が経営者より視点が長期的だ。その証拠に、会社が生き残りで雇用調整する時も、日本の労組は協力的だ。負債を抱えては会社が持たなくなると。

 -労組の力が落ち、会社の方針に異を唱えられないだけでは。

 そうみえるが、中長期的に健全な会社であることに労組は敏感だ。リストラに協力することへの賛否はあるが、他国には見られない、日本の企業別組合の独自機能であることは確かだ。

 -長時間労働抑止の観点からはどうか。

 労使双方にある残業が得という意識から変える必要がある。使用者側としては、残業させた方が、雇用を増やすよりも人件費が安く済む仕組みがある。残業には割増賃金を払うことになっているが、割増額を算出する基準となる残業一時間当たりの賃金には、賞与や各種手当、社会保険料の企業負担分が入っていない。一方、労働者側にも残業を求める理由がある。連合を構成する労働者の多くは、夫が働き、妻は主婦という「片稼ぎ」だ。主婦がパートに出るより、夫が残業した方が得。すると、残業手当が欲しいということになる。

 -だが、片稼ぎでは食えない時代になっている。

 それも問題かもしれないが、男女雇用平等の観点からも女性も男性と同じように収入のある仕事をすることが必要だ。そうした男女が結婚して子どもを産み育てるためには、賃金より時間の方が貴重になる。家族のモデルが共働きになれば、夫も残業せず子どもの面倒をみることになる。これまで労組の要求は専ら「お金」だった。これからは時間も重要。片稼ぎがモデルの既存労組では要求しにくいが、そこを変えるのが本当の働き方改革だ。

 (三浦耕喜)