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【暮らし】働きたい人の受け皿を 「高齢者は75歳から」提言

2017/03/08

◆日本老年・老年医学会座長に聞く

 ことしの年明け早々、話題をまいた日本老年学会・日本老年医学会の「高齢者は75歳から」提言。「まだまだ人の役に立てると元気をもらった」など、今でいう前期高齢者(65~74歳)層を勇気づける一方、年金支給開始年齢の引き上げや、望まない定年延長につながるのでは、との懸念も広がった。提言を取りまとめたワーキンググループ座長で虎の門病院(東京都港区)院長の大内尉義さん(68)に、あらためて疑問に答えてもらった。

 <疑問1> 年金や介護保険制度の対象年齢を引き上げたり、給付を減らしたりするきっかけになるのではないでしょうか。

 今回の提言は、科学的データに国民の意識変化も踏まえた客観的、合理的なもの。社会保障制度改変の前提にとの意図は全くないし、政府からの干渉もありません。むしろ、制度を縮小させるための政治利用には断固反対です。現行の65歳からの社会保障給付は、選択可能なセーフティーネットとして一層強化していくべきです。

 <疑問2> 何歳まで働かせるつもりなのか、高齢者が働き続けたら若者の職を奪う、と心配する声もあります。

 日本は少子超高齢社会に直面し、生産人口がどんどん減っている。65歳以上でも支える側に回る人が増えれば、若い世代の負担を減らせるし、本人の健康にも良い。何より、暗くなりがちな将来イメージを明るくすることができる。そのために働きたい人が働き続けられる受け皿を整えてほしい、というのが提言の主眼。65歳以上で働く人が増えても、若者にとって代われるわけではありません。職を奪う心配はないと思います。

 一方、高齢になるほど、生活スタイルは多様化します。元気なうちに仕事を辞めて旅行したい、というような生き方も認めるべきです。

 <疑問3> 「准高齢者」「超高齢者」の分類など「言葉の遊び」にすぎないのでは、との批判も。

 言葉遊びで提言をしたのではありませんが、言葉の力はすごく大きい。島根県出雲市長を務めた岩國哲人(いわくにてつんど)さんから聞いた話ですが、活動が低迷していた出雲市老人会に「青年部」をつくったところ、急に参加者が増えて活発になったといいます。言葉が人を変え、世の中を明るくすることもあります。

 <疑問4> 高齢者の若返りが続くとは限りません。定義を変えて大丈夫ですか。

 今の若返り現象が始まったのは1960年代ごろから。高度経済成長で食事、衛生環境が改善され、医学の進歩も目覚ましかった。しかし、50、60年後にも同じ現象が続いている保証はありません。今の子どもたちは栄養過多で運動不足といわれる。若返りを継続させるには、子どもたちに対する健康教育が非常に大切であり、それがわれわれの役割です。

 また将来的には、高齢者を暦の年齢で一律に定義するのではなく、生物学的な指標で的確に判断していくことも必要でしょう。

 (白鳥龍也)

 <おおうち・やすよし> 岡山県生まれ。東京大医学部卒。日本老年学会および日本老年医学会の前理事長。2013年から現職。