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【暮らし】介護の実情、漫画で学ぶ 大学の講義で教材に

2017/03/01

 介護や認知症を扱った漫画が人気だ。作者の実体験を描いたり、介護を取り巻く問題点に深く切り込んだりと作風はさまざまだが、シリアスになりがちなテーマを軽快なタッチで描く。介護漫画を介護福祉士養成の教材に使う大学もある。

 ◇ ◇ ◇

 「自分で排せつができるなら、トイレに誘導してあげれば嫌いなおむつを外せるかもしれない。これを読むと分かりますね」

 東洋大ライフデザイン学部(埼玉県朝霞市)准教授の八木裕子さん(47)が、漫画を手にした学生たちに問いかけた。

 学生が手にするのは、介護現場の問題を描いた「ヘルプマン!」(講談社)の2巻。介護福祉士を目指す1年生の講義で教材に使われている。

 2巻は在宅介護がテーマ。「鹿雄(しかお)さん」という高齢の認知症男性と、その介護に行き詰まる家族の葛藤が描かれている。八木さんが注目するのは細かな情景描写だ。

 足が不自由な鹿雄さんのため、自宅の廊下に手すりが取り付けられていたり、目を離すと食べ物をあさるため冷蔵庫のドアをひもで縛っていたりと、「どれも現実に見られる場面」と評価する。

 学生はこうした描写から鹿雄さんの生活習慣や健康状態、好き嫌いなどを読み取り、どんな介護を本人が望んでいるかを話し合う。

 「認知症の人は気持ちをうまく伝えられない人もいるので、何に困っているかなど介護職の気付きが大切になる。そうした観察力を養うのに『ヘルプマン!』は適している」と八木さん。

 介護の壮絶さを真正面から描くのもこの作品の特徴。2巻では鹿雄さんが家中に排せつ物をもらしたり、意にそぐわないと人の腕に血が出るほどかみついたりする場面が出てくる。授業で学ぶ大平梨紗子さん(19)は「衝撃は大きいけれど、こういう事態も起こり得るんだと心構えにもなる」と話す。

◆実体験を描いた作品多数

 介護漫画は、作者が実体験に基づいて描いた作品も多い。漫画家の了春刀(りょうはると)さんは昨年、要介護4と認定された父親の介護体験を基に、「マンガで知る! 初めての介護」(集英社)を出版した。

 同作では会社員の主人公が、突然倒れた一人暮らしの父親の介護に追われる様子が描かれている。「いざ親の介護となると何も分からずに不安の連続だった。そういう人は他にもいるのではと思った」と了さん。ケアマネジャーの選び方や介護費用の負担軽減制度など、介護サービスを利用するための解説も充実している。

 介護福祉士の資格を持つ漫画家の国広幸亜(ゆきえ)さん(40)は「実録! 介護のオシゴト」(秋田書店)などの著作で、介護の仕事で出会ったお年寄りとの交流を描いてきた。作風はほのぼのとして、笑いの要素も強い。国広さんは「介護は大変だけど前向きな面も知ってほしいし、そうした楽しさを伝えるのに漫画は向いている」と話した。

 (添田隆典)

 <ヘルプマン!> 漫画家のくさか里樹さんが、2003年から隔週刊誌「イブニング」(講談社)で連載を開始。14年から「ヘルプマン!!」とタイトルを変更し、週刊朝日(朝日新聞出版)で連載を続けている。11年に第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。

「ヘルプマン!」の一場面。自分の排せつ物を口にしようとする鹿雄さんを家族が必死に止めようとする (c)くさか里樹/講談社
「ヘルプマン!」の一場面。自分の排せつ物を口にしようとする鹿雄さんを家族が必死に止めようとする (c)くさか里樹/講談社
「ヘルプマン!」2巻を見ながら講義を受ける学生たち=埼玉県朝霞市の東洋大朝霞キャンパスで
「ヘルプマン!」2巻を見ながら講義を受ける学生たち=埼玉県朝霞市の東洋大朝霞キャンパスで