2014/06/17
名鉄バス 乗務1年気配り案内にファンも
ぼそぼそと小さい声。そんなイメージが強い路線バスの車内放送にも、乗客への気配りを忘れない運転手が、愛知県長久手市の名鉄バス名古屋営業所にいる。乗務員歴1年の吉井秀雄さん。各地でバスをめぐる不祥事や事故が続く中、オールドルーキーが掛ける臨機応変なひと声は「人情味がある」と好評だ。 (斎藤雄介)
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「ここに入れてね」
11日夕、名古屋市名東区の藤が丘駅前。車外まで聞こえる吉井さんの声に、3歳くらいの女の子が腕をいっぱいに伸ばした。チャリン。運賃箱が鳴ると、吉井さんは「よくできました」と手をたたく。女の子はにっこり笑い、降り口からぴょんと飛び降りた。
夜に女性が降りる時には「暗くなってまいりました。お気を付けてお帰りください」。日中に乗った主婦には「日差しが強くなり、日傘などの忘れ物が多くなっております」。状況に応じて、車内に聞こえるようにはっきりとした口調で言う。
名鉄バスによると、乗務員の車内放送にマニュアルはあるが、停留所を告げたり、車内事故への注意を促したりする程度。吉井さんは「数日に1度は同じお客さまと会う。コミュニケーションを取るのは普通だと思うんですけどね」と、独自のアレンジを加える。
昨年4月、愛知県内の金属加工会社から46歳で転職した。相次ぐ同業者の廃業や海外移転に、将来への不安を感じたからだ。「なくならない仕事を」と選んだのがこの職業。子どものころ、当たり前のように乗客と会話を交わしていた優しい運転手の姿が、頭の中にある。
理想を追う姿勢に、ファンもできた。声が裏返った時には女子大生があめ玉をくれたり、年配の女性がコーヒーを差し入れてくれたり。名古屋市中区の主婦児島俊子さん(59)は、「他人に無関心になりがちな時代だけに、心遣いにほっとする」と感心する。
名古屋市や長久手市などの路線で、1人で乗務に就くようになって1年。回送で走る時にも街の様子を観察しながら案内の内容を考え、レパートリーも増えた。次の目標は「水でいっぱいのコップを載せても、こぼれないようなブレーキ操作」。乗客に寄り添って一歩ずつ、ステップを上る。
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